ジャーナリスト寄稿記事

モーター・フォト・ジャーナリスト

諸星 陽一もろほし よういち

意見交換会から見るブリヂストンの環境問題への取り組みと新技術[MJ]

2023年11月29日。ブリヂストンは自動車ジャーナリスト10名を東京都小平市にある同社の施設「ブリヂストン・イノベーション・パーク」に招き、意見交換会を実施。

同社が取り組む環境問題や新分野などについて紹介するとともに、それらについての意見交換が行われた。

4つのテーマが掲げられたので、それぞれのテーマについて紹介しよう。

◯文:諸星 陽一

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モノづくり基盤技術「BCMA」とそれを生かした商品設計基盤技術「ENLITEN」

Bridgestone Commonality Modularity Architecture

BCMAというのはBridgestone Commonality Modularity Architectureの略。

製品を開発する際に、製品そのものを開発目標とするのではなく、一定のパートごとに開発目標を設定し、それらを組み合わせることで効率がよく、製品の要求性能を満たしやくするというもの。

たとえばタイヤの場合、ケース、カーカス、トレッドという3つのパートに分けて開発し、その組み合わせによって、理想的な製品(タイヤ)をアウトプットするという考え。

ENLITEN(エンライトン)は商品性を向上するために考えられた設計基盤技術で、「BCMA」を元に商品性を向上していくことを目的としている。

タイヤの場合はある性能を向上すると相反するほかの性能がダウンする傾向にある。たとえば、グリップをよくすると燃費が落ちるといった性能だ。

ENLITENの考え方では、まずすべての性能を目一杯引き上げた製品を開発する。
つまり、レーダーチャートそもののが大きくなるような製品作りだ。

そうしておいてさらに目指す性能を向上する。

もともとレーダーチャートが大きくしたもので、グリップを上げたタイヤを作り、乗り心地をアップすることなく維持できれば、従来よりもグリップもよく乗り心地もいいタイヤができるというわけだ。

そうした商品開発をするのがENLITEN、それを実現する技術がBCMAである。

ENLITENを用いた製品は欧州向けEV用タイヤとして2023年1月に発売されたトランザ6、同年5月に北米向けのEV用タイヤとしてリリースしたトランザEV、また、日本ではフルモデルチェンジしたいすゞエルフや三菱ふそうのeキャンターに採用されているR202がこのENLITENの思想を生かしたモデルとなっている。

使用済みタイヤリサイクルに向けての試みと新しいタイヤ素材

今や製造業は作って売るだけでは成り立たない。
製造時、販売時での環境性能の高さはもちろん、最終処分までを考えてモノ作りが求められている。

ブリヂストンの主力商品であるタイヤは、天然ゴム、合成ゴム、充填剤、配合剤、補強繊維、鋼材といった原材料で作られている。
このうち、合成ゴム、充填剤、配合剤、補強繊維は石油由来で、現在のタイヤを構成する要素の半分強を占めている。

タイヤの構造と原材料構成図

それらを自然由来素材に置き換えていくことで、石油の使用量を減らすことで二酸化炭素排出量を低減していくことがひとつの目標だ。

タイヤ原料のなかでも大きなウエイトを占めるゴムの天然ゴム比率を高めるのもひとつの手段だが、従来のゴムの木からのゴム採取ではなく、グアユールという植物からのゴム生産も研究。

グアユールは温暖な地でしか生育しないゴムの木に比べて、寒い地域でも栽培が可能とのことだ。

天然ゴム・グアユールとかタイヤの材料

現在、使用済みタイヤは燃料として使われたり、粉砕されるなどして舗装やグラウンドの部材としてマテリアル利用されるなどがリサイクルの主流となっている。

燃料をリサイクルというかどうか? には疑問が残る部分だが、少し前までは(日本ではとくに)タイヤの燃料利用はリサイクルとして推奨されていたほど。

そうした背景もあり、日本では燃料利用が63%、マテリアル利用が12%と燃料利用が多い。
一方欧州ではマテリアル利用が49%、燃料利用が28%、アメリカでは燃料利用が43%、マテリアル利用が33%となっている。

日米欧におけるタイヤリサイクルの現状

ブリヂストンはタイヤからタイヤの素材を作り出す研究も進めている。

現在はタイヤを高温で分解して素材を作り出しているが、高温分解は二酸化炭素が多く発生するため理想的ではない。

ブリヂストンが推し進めているのは低温分解と解重合を組み合わせたもので、2030年代にはパイロット機での実証実験、2050年代には大規模実証を目指している。

この方式により得られる素材は、「タイヤ分解油」と「再生カーボンブラック」となる。

空気を入れずに使えるタイヤはリユースとリサイクルも重視

エアフリーコンセプト技術のご紹介

ブリヂストンは「エアフリーコンセプト」と呼ばれるエアレスタイヤを開発している。

初出は2011年の東京モーターショーなので、約12年もの歴史を持つモデルである。
エアフリーコンセプトはブルーの樹脂部分の周囲にゴムのトレッドを貼り付けた構造。

エアフリータイヤ

このため、ブルーの樹脂部分はホイールだと思われがちだが、じつはこのブルーの樹脂部分もタイヤの構成パーツである。

一般的なタイヤに当てはめると、ブルーの部分はケースに当たり、ゴムの部分がトレッドに当たる。

ブルーの部分はフィン状のスポークを持つ形状となっている。ホイールは大きく変形しないが、タイヤのケースは外力によって変形する。エアフリーコンセプトのブルーの樹脂部分も変形することで乗り心地を確保している。

実際にこのエアフリーコンセプトを履いたタジマ・ジャイアンという超小型モビリティで試乗した。

タジマジャイアン

全体的には微振動があるものの、超小型モビリティ用のタイヤとしては十分な性能を持っているといえる。
気になる突起乗り越え時も、意外なほどしっかりとショックを吸収してくれる。

エアフリータイヤ

コーナリングの安定感も高く、オーバースピードでコーナーに進入した際のリカバリー能力も優れていた。

タジマジャイアン

エアフリーコンセプトはトレッドゴムを貼り替えて使う、リトレッドという使い方を前提としている。
トレッドが減った際、ユーザーはタイヤショップなどを訪れて新しいエアフリーコンセプトを履く。

外されたエアフリーコンセプトは工場にもどされて検査を受け問題がなければトレッドを貼り替えたリトレッド品として流通ルートに乗せられる。

一方、ケースが使用限界を超えていたり、破損がある場合は粉砕して素材として使われる。

エアフリーコンセプト

将来の人手不足を解決するソフトロボテックス

タイヤやチューブに空気を入れると硬くなるという原理を生かし、ロボットハンドの世界にも進出をはじめているブリヂストン。

今は製造業などで利用が進んでいるという。ブリヂストンが開発している「ソフトロボットハンド」は、4つの指を持った手腕ロボットだ。

ソフトロボットハンド

チューブ空気を入れると膨らんで硬くなるが、これだけではモノをつかむことはできない。
そこでチューブの片側に板バネを入れることで、空気を抜いた際にバネの入っている側に湾曲するようにしたものが1本の指にあたる。

駄菓子屋や縁日の屋台で売っている、息を吹き込むと丸まっていた筒がピューッとまっすぐになる“吹き戻し”という笛に似た構造。

ラバーアクチュエーター

この指を4本備えることでさまざまな形状のものをつかむことを可能にしている。

現在は製造現場での仕分け作業などに利用されているが、将来的には製造現場から生鮮食品の宅配サービス向けピックアップ業務への採用、さらにその先では高齢者や障がい者のサポートなどにも用途を広げていきたいとのこと。

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この記事を書いた人

モーター・フォト・ジャーナリスト

諸星 陽一もろほし よういち

モーター・フォト・ジャーナリスト。東京生まれ、東京育ち。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ボッシュ認定CDRアナリスト。

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