ジャーナリスト寄稿記事

モータージャーナリスト/日本ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

内田 俊一うちだ しゅんいち

三菱ふそうスーパーグレートのデザイナーに聞いた。30年後も耐えられるのが大型トラックのデザインだ[MJ]

街には乗用車ばかりではなく、商用車もたくさん走っている。

その中でも大型トラックはサイズが大きいだけにインパクトも強い。そんな大型トラックはどのようにデザインされているのだろう。

三菱ふそうトラック・バス(以下三菱ふそう)の大型トラック、スーパーグレートがモデルチェンジしたので、この機会にトラックはどのようにデザインされていくのか。

そのデザイナーにその特徴などを聞きながら解き明かしてみたい。

三菱ふそうスーパーグレード

〇文:内田俊一 写真:中野英幸・内田千鶴子・三菱ふそう

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30年後も耐えうるデザイン

大型トラックのモデルチェンジはおおよそ10年周期とロングライフだ。

つまりいまあるデザインのクルマが10年単位で販売されていて、その後10年から20年使われたとすると、実に30年後にも同じデザインのクルマが街を走っていることになる。

そんなクルマをデザインするのだからすごい仕事といえよう。30年後の街にも溶け込めるよう、違和感のないようにデザインしなければいけないからだ。

今回スーパーグレートはそのサイクルよりも若干早い約6年でのモデルチェンジとなったが、この理由は、燃費基準を達成するために新しいエンジンとともに、駆動系の抵抗低減が必要だったからだ。当然キャビン(ボディ)側でも空力改善に努めデザインも一新されたのである。

三菱ふそうスーパーグレード

そのデザインは大きく3つをテーマとされた。

まずは長く使ってもらえるようにというロングライフ。そして三菱ふそうとして明確なアイデンティティを表現すること。最後はプロフェッショナルツールだ。

縦基調から横基調へ勇気ある一歩はお客様の思いから

まずはロングライフだ。

前述の通り長ければ30年も見続ける大型トラックのデザインなのだから、「時間的耐久性を持たせたいと考えました」と話してくれたのは、三菱ふそうトラック・バス商品本部デザイン部アドバンスデザインマネージャーの土出哲之さんだ。

そこで、「割と大型トラックらしくないかもしれませんが、ひたすらトレンドを追うのではない、ちょっとユニークな面(ツラ)構えになっています」という。
現在の大型トラックのトレンドはいわゆる縦基調で大型のグリルが特徴だが、「そうではないところを考えた結果です」という。

2023_GIGA-TRACTOR_cabin_Middle Roof_02_Photo of Isuzu Motors_02

縦基調とはクルマを正面から見た時に上下方向に特徴が伸びていると思ってもらえばいい。

例えばグリルだ。
その結果としてハイパワーの象徴的な表現に繋がっているし、縦方向のヘッドライトなどもそれに合わせて違和感のないようにデザインされたものだ。

しかし三菱ふそうとして、「この先ハイパワーだけを謳って、そういった表現でデザインしていけばいいのか。もちろんトラックらしさとか、逞しさ、力強さも必要ですが、我々としてはもうちょっと違うところに行くべきだと考えて、こういったデザインにしました」と話す。

そこで横基調を採用した。
今回のモデルチェンジでは空力の改善が大きな命題なので、風の流れを意識した結果でもある。真正面から風があたると当然空気は横方向(クルマのサイド側)に流れていく。それをイメージしてのことだ。

また、三菱ふそうの大切なアイデンティティであるブラックベルトが横基調であることも効果を発揮し、遠くから見ても三菱ふそうのクルマだとわかるのもポイントだ。

同時に街で見た時の威圧感や圧迫感もだいぶ減った好感の持てるデザインに仕上がっている。

三菱ふそうスーパーグレード

ここで土出さんはスーパーグレートのデザイン開発の初期を振り返る。
「その頃はもちろんいろいろなデザインをトライしました。当時はグリルをもっと大きく見せたり、小型トラックのキャンターのヘッドランプをつけたらどうなるかなど、いろんな方向性をトライしていたんです。
大型トラックらしさはやはり縦基調だとは思うんですが、これはいまの大型トラックらしさ。そこでブラックベルトをベースに横基調にしていった結果、力士の四股を踏んだ時のような座りの良さが完成しました」と説明。

特にライトの上あたりに上向きのハイライトがあたる面を設けることで、座りの良さを持たせ、それより上の重いボディを支えられるような立体構成を完成させたのだ。

三菱ふそうスーパーグレードデザインスケッチ
三菱ふそうスーパーグレードグリルランプ

それにしてもいまの潮流から一気に離れ横基調にしたのは勇気のある決断だ。

土出さんは、「三菱ふそうは何かサプライズをやってくれる会社だという期待をお客様がお持ちだったのです。彼らはお客様であると同時に三菱ふそうのファンでいてくれるんですね。
ですからうちの会社のクルマは全部三菱ふそうで、このクルマはこんなにすごいんだというのが誇りだとおっしゃってくださる。
日本で最初にディスチャージランプをつけたのは三菱ふそうですし、初めての量産の電気トラックを日本で作ったのも我々です。ですからイノベーティブこそ三菱ふそうなんじゃないか。ですから横基調に踏み出せたのはお客様が何かしらそういったものを期待してくださっているのだから、改めて我々もそれに応えなければいけないということで踏み込む勇気につながったのだと思います」と語った。

黒帯の意味を持つブラックベルトは自信の表れ

いまブラックベルトの話が出たので、少し説明をしておこう。

ブラックベルトとは、三菱ふそうのアイデンティティを表現する黒い帯状のグリルを指す。

これを日本語にすると「黒帯」だ。

「柔道などで黒帯の保持者は強いだけではなく、精神的にも成熟していないと当然ダメなのです。そういった姿勢への思い、そして黒帯の結んだ形が三菱ふそうのエンブレムにも近い印象なので、そういったことから形作られています」と土出さん。

このエンブレムだが、「実はデコトラのフロントによく使われている星形のような加飾があるのですが、古い三菱ふそうのバスで使っていたモチーフを取り入れているのです。このマークは1980年代のバスにだけ使っていたものです」と僅かに使われていたバスだけのエンブレムだが、それが世に浸透していることから、あえてブラックベルトのデザインを考える上で参考にされた。

三菱ふそうバス

このブラックベルトが最初に使われていた1970年代当時はブラックマスクと呼ばれていた。

その当時も、「この黒の中にヘッドライト、ブランドマーク、クーリング機能が入っていたので、昔、我々がやってきたことは間違ってなかった。
それを解釈するとどうなるのかを、歴史をひも解いていまに反映しようと意識してデザインしています」とコメント。

スーパーグレートも、「後ろにインタークーラーとラジエーターがありますのでクーリング機能を考えています。ただ風流れの良さという空力と大型トラックなのでキャブの高さ違いがあるので、その作り分けも考えています」とのこと。

さらに、「このグリルは無塗装の樹脂のグリルです。
工場もグリーン化を進めていますし、少しでもCO2の削減につなげられないかと、無塗装のグリルを提案しています。つまり機能的なところに加えて我々が取り組んでいるグリーン化もこのブラックベルトに込めています」と話す。

このように遠くから見ても三菱ふそうのクルマだと一目で分かるように仕上げられた。

同時に一目で分かるということは、「我々がちゃんと自信を持ってお客様にお届けできる商品だという裏付けでもあります。そのためにも三菱ふそうと識別できることを考えているのです」とコメントした。

プロが使うツールとして

そしてプロフェッショナルツールだ。

土出さんは、「我々がつくっている商品は、これらを使ってお客様に稼いでいただくものですので、いたずらに装飾にお金をかけるとか、使いにくくならないかとか、そういったところも当然注意して開発しています」と述べたうえで、今回は空力に効果のあるスーパーハイルーフが新設定された。

従来のハイルーフよりもさらに300mmほどかさ上げしたものだ。

これまでは、ルーフに対して荷台がより高くなっているため、風をキレイに流すためのスポイラーの役目を果たすべくルーフ部分にあとから取り付けられたものだった。つまり、そのハイルーフの下は空洞だ。

しかしスーパーハイルーフはボディと一体化されたことで室内の頭上空間も向上したものとなり、品質も保証されたものなのだ。

この空力に対してはフロント周りも同様で、先代にあった凸凹した面は極力なくし風流れを意識したものになっている。

また、サイド部分の角の取り方も解析部門と連携を取りながら調整をしていったそうだ。

因みに僅かにヘッドライト脇は少し出っ張った形状になっている。

ここにはレーダーが入れられたためで、あえてここにレーダーがあると喚起するという目的もあり、ピクトグラムも入れられた。

三菱ふそうスーパーグレード

いまだから重要なインテリア

大型トラックは長距離輸送の重責も担っているので、インテリアも重要だ。

スーパーグレートのスーパーハイルーフ仕様では、ブラックベルトを反復するようにぐるりと頭上を半周物入などがレイアウトされた。

まずフロント頭上には手をすっと伸ばせばすぐに使えるように冷凍冷蔵庫などをはじめとしたさまざまな機器がレイアウトでき、その下には使用頻度の高いバインダーやファイルなどが入れられるようになっている。

三菱ふそうスーパーグレード
三菱ふそうスーパーグレード

実はトラックのインパネは結構低い位置にレイアウトされているので、運転時に何か操作したいときには、視線を落とさなければ操作がしにくい状況になりがちだという。

しかし今回のレイアウトであれば、目視しなくても上に手を伸ばせば届くところにあるので、使い勝手を考え理に適っている。さらに運転席や助手席サイドにはフックや小物入れもレイアウトされている。

三菱ふそうスーパーグレード

こういったレイアウトをしていきながらも、実用一辺倒にならないように、頭上のボックスは旅客機客室のオーバーコンソールのように柔らかな面を持つものであり、乗用車では一般的になりつつある間接照明なども配され、快適に落ち着いて運転してもらえる空間を作り上げたのだ。

同様に室内の快適性という考えでは、これまで黒が主流だったインテリアカラーも新型では赤が追加された。

先代と比較しインパネ形状はほとんど変更されなかったことから、「色で何か訴求できないかと提案したもので、発売前の評価会でも支持を多く集めた色のひとつです」と土出さん。

「プロジェクトとしてはお金のかかることはやりたくないのですが、外観やインテリア全体が大幅に変わったのに、インパネ周りだけ先代と一緒というのは流石にまずいと、お客様のニーズ、強い声が後押しになって色替えすることができました」と話す。

三菱ふそうスーパーグレードインパネ

土出さんは、「赤はともすれば1990年代の“ハイソカー”的に見えてしまうかもしれませんが、こういった色は割と30年周期くらいでまわってきますし、当時の色よりはもう少し色相を変えていますので、年代によっては新鮮に感じてもらえるでしょうし、ハイソカーをご存じの年代は懐かしいねと思ってもらえるでしょう」という。

もちろん黒内装もラインナップされ、「黒一辺倒にならないように色の組み合わせ等も考えて少し白を入れたり、グローブボックス周りにシルバーの塗装を入れたりもしました」とのこと。

三菱ふそうスーパーグレード

土田さんは、このように細かいところまで気を配ることの理由について、「運送会社によると良いクルマをドライバーに与えると、当然モチベーションにもなるし、クルマをキレイに大事に安全運転しようとなるそうです。
ですからいままではあまりトラックにデザインでということはなかったのですが、最近はそういったデザイン面でドライバーのモチベーションを上げ、幅広くドライバーに運転してもらえるように抵抗感を下げることも、すごく大事になってきています。従って、商品力の中でのデザインの役割はすごく重要になってきています」と語った。

三菱ふそうスーパーグレード

お話を伺いながらスーパーグレートを見ていて感じたのは、圧迫感や威圧感の少なさだった。
ともすれば自分の運転するクルマの後ろにいることもあるだろうし、歩いていてすれ違うこともあるだろう。そういった時にサイズが大きいだけに“圧”を感じてしまうと、怖さにもつながってしまう。

しかしこのスーパーグレートにはそれがあまりないのだ。だからといって貧弱などの弱々しさは全くない。

このあたりはデザイナーの手腕によるところが大きい。

長きにわたってこのデザインの大型トラックが街を走るのだが、きっとどこで出会っても街に溶け込んだ働き者のクルマとして、活躍してくれることだろう。

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この記事を書いた人

モータージャーナリスト/日本ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

内田 俊一うちだ しゅんいち

1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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