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諸星 陽一もろほし よういち

クルマ関連記事を読むためにほしい基礎知識/カタログ・諸元表編[MJ]

○文:諸星 陽一

ネットや雑誌でクルマ関連の記事を読むと、難しい言葉が出てくることがよくあります。

自動車は複雑な工業製品のためどうしても専門用語を使いがちです。

今回はカタログの諸元表に登場する言葉や数字の意味を説明します。

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出光のカーリース・ポチモへ
出光のカーリース・ポチモへ

カタログ諸元/寸法編

ボディのサイズについて、全長、全幅、全高についてはわかりやすいと思います。

ただし、全幅はドアミラーを含まない寸法なので、全幅ギリギリの壁と壁の間にクルマを入れるとドアミラーをこすることになります。

最低地上高というのはボディの一番低い部分と路面との距離です。
タイヤ、ホイール、ブレーキドラムやサスペンションアーム、泥よけなどは含まれません。

この値が大きいほど、荒れ地などの凹凸のある場面でボディをこすらずに走れることになります。

ダイハツムーヴキャンバス寸法図
ダイハツ ムーヴキャンバス 寸法図
出典:ダイハツ工業株式会社

ホイールベースとトレッド

寸法欄にはホイールベースとトレッドという項目もあります。

ホイールベースというのは前後の車軸の距離、つまり前後のタイヤの中心の距離です。

ホイールベース

トレッドは左右のタイヤの中心間の距離です。
タイヤ横幅の中心間なので、タイヤを太くしたからといって、数値上のトレッドが大きくなるとは限りません。

トレッド

室内の寸法

アルファード、ヴェルファイア 先行室内側面スケッチ
アルファード、ヴェルファイア 先行室内側面スケッチ
出典:トヨタ自動車株式会社

室内の寸法についても室内長、室内幅、室内高の3つの寸法が記載されていますが、室内寸法については各社のポリシーが異なる部分があり、横比較は難しい数値です。

また、フルモデルチェンジの前後でポリシーが変わっていることもあり、前型との比較が難しい場合もあるので、あまりあてにできる数値ではありません。

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カタログ諸元/パワートレイン編

最高出力と最大トルク

アルファード、ヴェルファイア 2.5Lハイブリッドシステム
アルファード、ヴェルファイア 2.5Lハイブリッドシステム
出典:トヨタ自動車株式会社

エンジンやモーターの性能は最高出力と最大トルクという2つの数値で表されます。
トルクというのは回転軸に発生するねじりの力です……という時点で「?」ですよね。

正確な答えではありませんが、トルクはエンジンやモーターが発生する力と考えていいでしょう。

では出力とは何かといえば、トルクに回転数を掛けたものです。

つまり、低回転で高トルクを発生するエンジンやモーターでも、回転数を上げられないと最高出力は高くなりません。

逆に低めのトルクでも回転数を上げられれば、最高出力をアップできます。

エンジンはある程度回転数を上げないと最大トルクを得られませんが、モーターは動き出した瞬間に最大トルクが得られます。
このため、EVは発進が力強いと言われるのです。

変速機

エンジンにはかならず変速機が組み合わされます。

変速機は〇速オートマチック、〇速マニュアル、CVT、電気式無段変速機などがおもなタイプです。〇は段数(速数)が入ります。

6速ならば6種類の変速比と後退(リバースギヤ、バックギヤ)という意味です。

CVTというのは無段変速機でプーリー(滑車)と金属ベルトや金属チェーンを組み合わせたものです。
無段階の名のとおり、段数ではなく2.236〜0.447というように、段階を持たず範囲で変速する装置です。

電気式無段変速機は、その変速機構に電気的な要素が加わったものでトヨタのハイブリッドシステムなどに使われます。

スズキのAGS(オートギヤシフト)などは、マニュアルミッションのクラッチ操作を機械が行ってくれるものです。
変速機の構造そのものはマニュアルミッションと同じですが、クラッチ操作がオートマチックになります。

スズキ Auto Gear Shift(オートギヤシフト)
スズキ Auto Gear Shift(オートギヤシフト)
出典:スズキ株式会社

ギヤの変速操作は手動で行わなくてはならないタイプですが、日本の法規では運転者がクラッチ操作を行わない(つまりクラッチペダルがないもの)は、AT限定免許での運転が可能です。

ギヤ

ギヤ比は数字が大きいほど軽いギヤ、小さいほど重いギヤです。

軽いギヤは坂道を力強く登れ、重いギヤは高速道路でエンジン回転数を落とせます。

複数のクルマのギヤ比の比較は単純にギヤ比だけではできず、ギヤ比と最終減速比を掛けた数値を比較する必要があります。

カタログ諸元/シャーシ編

シャーシというのは車体構造、サスペンション、ブレーキ、ホイールなどの部分を差します。
エンジンや変速機なども含むこともありますが、ここではエンジンや変速機を除いた話とします。

サスペンション

サスペンションは大きく独立懸架と固定式の2種に分けられます。

独立懸架

独立懸架というのは右のサスペンションの動きが左のサスペンションの動きに影響しないというものです。

独立懸架の代表的な形式はダブルウィッシュボーンというものです。
ウィッシュボーンというのはA型をした鳥の骨のことで、このA型アームを上下に配置したタイプのサスペンションです。

アルファード、ヴェルファイアダブルウィッシュボーン式リヤサスペンション
アルファード、ヴェルファイア ダブルウィッシュボーン式リヤサスペンション
出典:トヨタ自動車株式会社

ダブルウィッシュボーンの上側アームをショックアブソーバーに置き換えたものがマクファーソンストラットで単にストラットと呼ばれることもあります。

CIVIC TYPE R TYPE R専用サスペンション(フロント:デュアルアクシス・ストラットリア:マルチリンク)
CIVIC TYPE R TYPE R専用サスペンション(フロント:デュアルアクシス・ストラット、リア:マルチリンク)
出典:本田技研工業株式会社

マルチリンクと言われるものは、ダブルウィッシュボーンにアーム類をプラスしたものです。

ドイツ勢のカタログを見るとフロントサスペンションに4リンクと記載されていることがあります。
これはダブルウィッシュボーンの上下のA型アームを、それぞれI型2本にしたもので、上側2本、下側2本のアームで計4本としたものです。

最近は使用例があまり見られませんが、フルトレーリングアーム式やセミトレーリングアーム式といわれるものも独立懸架です。

独立懸架といっても、左右のサスペンションが完全に独立して動いてしまうと、悪影響を及ぼすことがあります。
それをある程度制御するために装備されるのが、スタビライザーという部品です。

固定式サスペンション

固定式サスペンションは車軸式と呼ばれることもあります。固定式では右のサスペンションが縮むと、左のサスペンションは伸びる、といった動きをします。

もっとも単純な固定式は板バネを使ったもので、リーフスプリング式や半楕円リーフスプリング式などと呼ばれます。

FF車のリヤサスペンションに多く使われているのがトーションビーム式で、これは左右をトーションビームというねじり材で連結したものです。

車軸を複数のアームで吊ったものは〇リンク式といわれます。
もっとも〇リンク式は3リンク、4リンク、5リンクが一般的です。

JIMNY_3リンクリジッドアクスル式サスペンション_01
JIMNY 3リンクリジッドアクスル式サスペンション
出典:スズキ株式会社

ただしメーカーによってリンクの数え方が異なり、同じ方式でありながらトヨタでは4リンク、日産では5リンクと呼ぶものもあります。

ブレーキ

ブレーキはディスク式、ベンチレーテッドディスク式、ドラム式の3種類がおもな方式です。

ディスク式/ベンチレーテッドディスク式

ディスク式というのは鉄の円盤をパッドと呼ばれる摩こす材で挟むことでブレーキを掛けます。

ベンチレーテッドディスク式というのは、鉄の円盤が単純な円盤ではなく2枚の円盤を貼り合わせたもので、中間部分が空洞化されているものを使うタイプです。
こうすることでディスクを効率的に冷やせれば、強いブレーキ力を得られます。

CIVIC TYPE R Brembo社製フロント大径ベンチレーテッド2ピースディスクブレーキ
CIVIC TYPE R Brembo社製フロント大径ベンチレーテッド2ピースディスクブレーキ
出典:本田技研工業株式会社

なかには、ディスクに穴を開けたものも存在します。
また、スーパーカーなどでは、ディスクの素材を鉄ではなく炭素(カーボン)としたものも存在します。

ディスクブレーキの構成部品のなかでポットと呼ばれるものがあります。
これはブレーキパッドを押すための部品です。

もっとも単純なディスクブレーキは、片側だけのパッドを押して、その力が反対側にも伝わって両側から挟むように作用します。

少し強力なディスクブレーキになると左右にポットがついていて、左右から挟む方式をとなります。
このタイプを対向2ポットと呼びます。

さらに強力になると左右に2対のポットを設けた対向4ポット、3対を設けた対向6ポットとなります。

ドラムブレーキ

ドラムブレーキ

ドラムブレーキというのは、ドラムと呼ばれる部品に内側からシューと呼ばれる摩こす材を押しつける方式です。

ドラムは鍋の内側と考えて下さい。そこに曲面が合ったシューを押しつけます。

最近のクルマではリヤブレーキに使われることがある程度で、フロントブレーキにはまず使われません。

現在使われているドラムブレーキはリーディング&トレーリング式といわれるものです。
この方式のいいところは、リーディング側のシューがドラムの内側とこすれることで、引っ張られて自然と張りつくように作用することです。

ドラムブレーキ

これはパーキングブレーキとしては非常に優れた特性で、下り坂でクルマを止めた際もリーディング側のシューが張りついていくのでしっかりとパーキングブレーキが効きます。

「では上り坂は?」というと上り坂ではトレーリング側のシューがリーディング側と同じ働きをするので、同様に優れた特性を示します。

上級モデルになると、ドラムインディスクといって、フットブレーキ(通常のブレーキ)はディスク式、パーキングブレーキはドラム式という複雑な構造のものも存在します。

カタログの見方にはまだ紹介したい部分もありますが、今回はこれくらいにして、またあらためて詳しく紹介していこうと思っています。

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この記事を書いた人

モーター・フォト・ジャーナリスト

諸星 陽一もろほし よういち

モーター・フォト・ジャーナリスト。東京生まれ、東京育ち。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ボッシュ認定CDRアナリスト。

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