【フォルクスワーゲン ID.4試乗レポート】リヤ駆動らしいハンドリングとEVの静粛性が光る![MJ]
○文:丸山 誠
ヨーロッパの自動車は急速にBEV(バッテリー電気自動車、以下EV)にシフトしている。
2023年2月中旬にEU(ヨーロッパ連合)は、2035年にガソリン車などの新車販売を事実上禁止する法案がヨーロッパ議会で採択された。
以前からICE(内燃エンジン)の販売が事実上できなくなることはわかっていたが、ヨーロッパ理事会の承認が得られれば(得られるだろう)EU域内ではハイブリッド車も売ることができなくなるわけだ。
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INDEX
フォルクスワーゲン
フォルクスワーゲンは、すでに2033年末にEVのみを生産する方針を示していて、ラインナップを急速に拡大中。
同社は2050年までにCO2排出量実質ゼロを目指す「Way to ZERO」を目標に掲げていて、日本でもEV化を加速。
その第1弾が日本で最初のフル電動SUVのID.4となる。
すでに日本市場以外では事実上ゴルフの後継となるハッチバックのID.3、4ドアクーペのID.5、ID.4をロングホイールベース化して7乗りにしたID.6がすでに販売されている。
さらにワーゲンバスの再来といわれているミニバンのID.Buzz(バズ)も日本で公開された。
2023年第2四半期には、新型セダンのID.7がローンチを予定でヨーロッパ、北米、中国の主要3市場に投入されるという。
ID.シリーズ
日本ではまだなじみのないID.シリーズだが、2022年の世界の販売はすでに50万台突破したという。
2026年までにさらに10車種のEVを導入予定というから、そのスピード感に圧倒される。
もちろん前述の規制がEV化のスピード感を加速しているのは事実だが、カーボンニュートラルという点でLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)を考えると、この急速なEV化が正解なのか疑問は残る。
ID.4
ID.4は、日本自動車輸入組合(JAIA)が主催する試乗会で試乗することができた。
グレードは「Pro(プロ)」で648万8000円。装備が簡素化されバッテリー容量が小さい「Lite(ライト)」は、514万2000円となっている。
Proのバッテリー容量は77kWhでカタログ上は618kmの航続距離を持つが、Liteは同52kWhで435kmの航続距離だ。
デザイン
エクステリア
エクステリアデザインを見るとSUVというよりハッチバックのクロスオーバーモデルという感じで、VWのエンブレムを隠してしまうとどこのメーカーのクルマであるかがわからない。
従来のICE搭載車とは明らかにテイストが違っていて、全体的にソフトな印象に仕上げられている。
デザインテーマは「力強さ」「頼もしさ」だという。
ほかのID.シリーズと共通するデザインで、柔らかなボディラインにシャープなエッジが織り込まれている。
特にリヤ方向にシャープなラインが描かれているためフロント側とリヤ斜め側から見ると違ったテイストに見える。
Cd(空気抵抗係数)値0.28とSUVとしては優れた数値をマークしていて、ほぼグリルレスのデザインが空気抵抗を小さくしているのがわかる。
ヘッドライト
ヘッドライトはProにマトリックスLEDを使ったIQ.ライトを標準装備していて、フロントカメラが前走車や対向車などの周囲の状況を検知して最適な配光を行う。
このライトは、18個の独立したLEDで構成され、そのうちの11個が状況によって減光。
ナイトドライビングでは対向車などを幻惑することなく、なるべく多くの範囲と遠くを照らすことで安全性がアップする実用的な装備だ。
こうしたライトはメーカーによってネーミングは異なるが、安全性を向上するためいろいろなタイプが実用化されている。
フォルクスワーゲンのグループであるアウディなど一部車種ではレーザーライトを採用していて、数百メートル先を照らすことが可能になっている。
ドアハンドル
特徴的なのはボディ面に一体化されたドアハンドル。
最近はドアハンドルをボディと一体化するモデルが登場してきているが、これらは見栄えをよくすると同時にボディサイドを流れる空気の乱れを最小限にすることで空気抵抗を抑えると同時に風切り音を小さくする効果がある。
ドアはハンドル内側を触ることで電子的にロック解除される仕組みで、これも最近一部のクルマで採用が拡大している。
インテリア
インパネ
運転席に座って改めインパネまわりをじっくり見ると、さほど新しいデザインではないことがわかる。
EVは尖ったデザインにすることがあるが、ID.4はオーソドックスな感じだ。
ダッシュパネルがフローティングしているようにデザインしたようだが、それほど新鮮味はなく普通に見える。
伝統的なT字型のデザインで運転席前にメーターなどのディスプレイ(5.3インチ)を置き、車両設定やナビを映し出すモニター(Pro12インチ、Lite10インチ)を中央にレイアウトするのも一般的なデザインで奇をてらっていない。
ドライブモードセレクター
新しいモデルであることを実感するのは、運転席前のモニター横に付けられたシフトノブに代わるドライブモードセレクターだ。
シートに座ってシートベルトをしてD(ドライブ)レンジに入れようとして、センターコンソールあたりを見てもシフトらしきものがないので戸惑ってしまう。
ステアリング越しにちらりと見えるセレクターに気づいても、スイッチはP(駐車)スイッチだけに見える。
じつはセレクター自体をひねるとDやR(リバース)に入るというユニークな仕掛けだ。
最初は操作がわからないが、一度位置や操作方法がわかれば使い勝手に問題はない。
基本的にこの部分は走行中に操作する必要がないからだ。
走行性能
加速性能と静粛性
スタートするとEVらしく静かな加速で、アクセルに対するレスポンスもガソリン車並みで扱いやすい。
またモーターやインバーターなどの音が抑えられていてキャビンの静粛性が高い。
高速道路に入って速度をアップしても静かさを保ったままで、アクセルを大きく踏み込む場面でもモーター音などは低く抑えられている。
他車ではアクセルの踏み込み量に応じて電子的な音(疑似排気音であったり、創作の音)を車室内に響かせるモデルがあるが、ID.4はEVらしい静かさを追求しているようだ。
170馬力、最高速160km/hというスペックも大人しいものだ。
それはボディの風切り音にも表れている。
空気抵抗の少ないデザインは高速域での静粛性に貢献していて、ドアミラーなどが大きな音を立てることがない。
タイヤが巻き上げる小石や砂がホールハウスに当たる音もほとんど気になることがなく、EV最大の特徴である静粛性に気を配って開発されたことがよくわかる。
ハンドリング
ハンドリングが極めてナチュラルなのも特徴だ。
リヤにモーターを配置して、リヤタイヤを駆動するRRの方式を採用しているため、ステアリングに伝わる手応えがスッキリしている。
例えば車線変更。ステアリングを切ってからクルマが動き出してレーンを移り、車線に納まるまでの動きがスムーズで、クルマを長く作り続けているメーカーらしい仕上げだ。
もちろんステアリング機構などあらゆる部分の精度や制御でこうした緻密な動きができ、ICE車で得たノウハウがEVにも生かされているわけだ。
モーターやギヤボックス、制御系を含めてリヤのモーター重量はわずか約90kgと軽量。
重いバッテリーはフロア部分に配置され、前後の重量は理想に近い50対50に近い配分になっていて、これで重心が低いわけだから基本設計がしっかりとしているわけだ。
コーナリングからの立ち上がりで意識的にアクセルを深く踏み込むと、リヤタイヤがボディを蹴り出しているRRらしいフィールがあり、トラクションがいい。
車両重量が2トンをオーバーしているため軽快とまではいかないが、RRらしいスポーティなクルマ動きでステアリングフィールがスッキリしている。クルマ好きがハンドリングを十分に楽しめる仕上がりだ。
バッテリー
EVの購入を検討している人の心配事は、バッテリーと充電関係だろう。
バッテリーは冷却システム付きで、つねにモジュールの温度を約25度に熱管理している。
バッテリーのコンディションを維持するには、この温度コントロールが重要で耐久性を大きく左右。
バッテリーは8年、または16万km走行後で容量の70%を保証しているのは安心だ。
充電は普通充電(200V)と急速充電(CHAdeMO規格)に対応。
90kWのCHAdeMo急速充電器を使うと、バッテリー警告灯が点灯してから80%までの充電時間が約40分だというから、約30分で充電が終了する場所だと80%充電は難しいかもしれない。
航続距離は618kmとアナウンスされているが電欠を防ぐためには、満充電でスタートしても450km前後の走行で充電したほうがいいだろう。
特に冬にエアコンとシートヒーターを使うと、確実に航続距離が短くなるのは現在のEVに共通する。
ID.4はリヤ駆動らしいハンドリングが光るSUV。
雪道を走るともっとダイナミックな動きが楽しめて、より楽しいはずだ。
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