ジャーナリスト寄稿記事

モータージャーナリスト/日本ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

内田 俊一うちだ しゅんいち

低価格のBEV、BYDドルフィンはヨーロッパメーカー出身のデザイナーたちが手掛けていた[MJ]

中国の自動車メーカーであるBYDは、日本に電気自動車(BEV)のみで参入を開始し、その1号車は、クロスオーバーSUVのATTO3で、2023年1月に導入を開始。

また2025年末までに日本全国に100以上のディーラーを展開する予定だ。

そして9月には主力車種となるコンパクトハッチバックのドルフィンの販売を開始した。

その価格は363万円からと、補助金などを踏まえると、300万円を切る戦略的な価格で発売された。
そこで、このドルフィンがどういうクルマなのかを解説したい。

〇文:内田俊一 写真:内田俊一・BYDオートジャパン

内田 俊一 の記事一覧

出光のカーリース・ポチモへ
出光のカーリース・ポチモへ

世界で最も電気自動車を生産しているメーカー

BYDドルフィン

ドルフィンの話を始める前に、BYDとはどういうメーカーなのかから始めよう。

BYDは、1995年に中国は深圳で創業し、ITエレクトロニクス、自動車、新エネルギー、都市モビリティの4つの領域で事業をグローバルに展開。

バッテリーメーカーとして創業した背景から、バッテリーはもとより、モーターやコントローラーなど電気自動車のコアとなる技術を自社開発・製造している。

BYDドルフィン

特に、自動車事業においては、世界70を超す国と地域、400以上の都市に電気自動車を展開し、中国国内では9年連続でNEV(EV、PHEV、FCV)販売台数第1位、さらに、2022年及び2023年1~8月のNEV販売台数では世界でトップ(マークラインズ調べ)を達成しているメーカーだ。

BYDドルフィン

日本においては乗用車事業より前に、EVバスやEVフォークリフトなどを中心とした事業を展開しており、日本国内のEVバスにおけるシェアは約7割に上っている。

日本市場初の乗用車はATT3で、2022年2月に中国で販売を開始。
それ以降シンガポールやオーストラリアなど、中国国外でも販売されているグローバルモデルだ。

BYDが2021年に発表した最新型のリン酸鉄リチウムイオン電池、ブレードバッテリーを搭載。
これはバッテリーセルそのものをバッテリーパックのひとつの構成部品とすることで、空間利用率を従来比50%改善し、安全性を担保しながらエネルギー密度を大幅に高め、航続距離を向上することに成功したものだ。

バッテリー保証は8年、15万km。もうひとつはe-Platform3.0と呼ばれる、新開発のEV専用プラットフォームも採用。

BYDドルフィン

ブレードバッテリーを搭載したEV専用のプラットフォーム、e-Platform3.0により、高い安全性とともに、485kmの航続距離(社内で計測したWLTC値)を実現。

また、フラットな床面によって、広い車内空間と440Lの荷室容量を確保している。
このATTO3と今回解説するドルフィン、そして、来年早々には発表される予定のEセグメントセダンのSEALの3台体制で日本市場に挑むことになる。

コンパクトハッチEVのメリット

BYDドルフィン

今回コンパクトハッチバックのEV、ドルフィンを日本で販売する背景には、いくつかの要因があった。

まずひとつは都市部におけるコンパクトEVへの期待だ。
首都圏の場合、マンションなどの集合住宅の駐車場は機械式のケースが多い。そこにはサイズ制限があり、特に全高は1550mmというケースが見られる。

BYDドルフィン

そのサイズに収まるコンパクトカーが求められている。

BYDドルフィン

同時に2023年度からはEV用充電設置の補助金が増額され、2025年には東京都内で新築マンションにEVの充電設備を設置することが義務化されることが挙げられる。

そういった状況下でEVを購入しやすい環境がさらに進むのではないかという予測だ。

BYDドルフィン

また、BYDオートジャパン(BYDの日本法人ビーワイディージャパンの100% 出資子会社で、日本におけるBYD の乗用車販売サービス専業会社)の調査によると、都市部と地方とで比較すると、地方ではよりコンパクトカーへの期待が大きいという。

その理由は、戸建て住宅で敷地内に駐車場スペースを確保しやすいことから、一世帯あたりの自家用車保有台数が都市部よりも多い傾向にある。

BYDドルフィン

その1台は日常の足としてコンパクトで運転しやすく、小回りが利く生活の足としてコンパクトEVの需要が高まると予想しているのだ。
同時に自宅敷地内に充電設備を配することも比較的容易に可能なこともある。

そういった視点から、コンパクトな電気自動車、ドルフィンが導入されたのだ。

BセグとCセグの間

BYDドルフィン

では、ドルフィンはどういうクルマなのだろう。
2021年8月に中国国内で販売を開始して以降、タイやオーストラリア、シンガポールなどで販売をしており、グローバルでの販売台数は約43万台にも上るクルマで、ATTO3と同様、ブレードバッテリーを搭載する新プラットフォーム、e-Platform3.0で構成されている。

BYDドルフィン

サイズは全長4,290mm、全幅1,770mm、全高1,550mm、ホイールベースは2,700mmと、日産リーフの4,480mm、1,790、1,560mm(ルーフアンテナを可倒式にすると1,540mm)、2,700mm(以上同順)と、若干コンパクトなサイズであることが分かる。

つまりBセグメント(マツダ2やホンダフィットなど)とCセグメント(トヨタプリウスや日産リーフ)の間といえよう。なお、この全高は日本仕様のためにルーフアンテナを変更して達成されたものだ。

BYDドルフィン

この数字から読み取れることは室内の広さで、Cセグメントのリーフと同じホイールベースを確保されているということは、同サイズの室内空間がつくられているといっていい。

BYDドルフィン

実際に実車を見ても、後席を含め必要にして十分のスペースを確保。

さらに荷室は、通常で345Lとリーフの435Lよりも若干小さいが、6:4分割の後席を全て倒すと1310Lに拡大し、その際、床面がリーフよりもフラットになるというメリットがある。

BYDドルフィン
BYDドルフィン

安全運転支援システムも充実

安全装備に関しても、他社と同様のレベル以上のものを装備。グレード間での装備差がないことは評価に値する。

BYDドルフィン

特に、ドライバー注意喚起機能や、幼児置き去り検知システム、誤発進抑制システム、フロントクロストラフィックアラートとフロントクロストランフィックブレーキはATTO3には搭載されていない、今回新たに採用知られたものだ。

幼児置き去り検知システムは、ミリ波レーダーにより助手席側と後席の生命体の存在を検知することで、ライトの点滅とホーンによりオーナーや周囲の人々に知らせるシステムで、このセグメントではあまり装備されていない機能だ。

BYDドルフィン

誤発進抑制システムは日本仕様に向けて新たに開発されたものだ。

アクセルとブレーキを踏み間違えてしまう事故を抑制するもので、車速10キロ以下の発進時や低速走行時に進行方向3m以内に障害物がある場合にアクセルペダルの踏み込みを抑制する。

アウディやメルセデス出身のデザイナーが手掛けたデザイン

BYDドルフィン

そしてデザインも特徴的だ。その目指すところはあらゆる人が親しみやすいデザインだという。

BYDドルフィンは、海洋生物の自由さや美しさから着想を得たオーシャン・エステティックというデザインフィロソフィーのもとに開発された。

その名の通り海を自由に泳ぐイルカを表現したデザインのエクステリアは元アウディのデザイン部長、ヴォルフガング・エッガー率いるチーム、インテリアはメルセデスベンツ出身のニケレ・アマネッティ氏を中心に開発されている。

BYDドルフィン

従って一昔前の中国製車両とは一線を画す、ヨーロッパナイズされたデザインを纏っているのだ。

エクステリアの第一印象は、海に飛び込むイルカをイメージした躍動感とともに親しみを感じさせるもの。
イルカのように人懐っこく、愛らしい丸みを帯びた見た目が特徴だ。

サイドビューには力強いキャラクターラインを2本採用。これはイルカが海面から飛び出してくる時の躍動感を表現しており、これによりクルマが前に力強く進んでいくイメージを与えている。

BYDドルフィン

続いてインテリアでは、滑らかで広がりのある曲線でデザイン。

ダッシュボード全体に広がる曲面は、なだらかに起伏を繰り返す穏やかな波のように見せており、モダンでダイナミックな車内空間を演出している。

BYDドルフィン

さらに、ダッシュボード両端の波のようなデザインが施された吹き出し口や、イルカのヒレをモチーフにしたドアノブなど、さまざまな遊び心が散りばめられている。

BYDドルフィン

そして、室内を見渡すとATのシフトレバーがないことに気付くだろう。それはセンターパネルのスイッチ類と並んで一番右側に配されている。

BYDドルフィン

ダイヤル式で前に回してリバース、手前に回すとニュートラル、そしてドライブとなる。
パーキングは横方向から押し込むことで機能する。

BYDドルフィン

こうすることにより車内空間をより広くすることができたのだ。

走らせても必要にして十分

BYDドルフィン

ドルフィンの日本仕様は2種類あり、バッテリー容量44.9kWhで1充電あたりの走行距離は400kmのBYDドルフィンで、最大出力95ps、最大トルクは180Nmを発揮。

そしてバッテリー容量58.56kWhで1充電あたりの走行距離は476kmのBYDドルフィンロングレンジは最大出力204ps、最大トルク310Nmとなり、出力に関しては倍以上となる。

ドルフィンとドルフィンロングレンジとでは車重が160kgロングレンジの方が重く1680kgある。

BYDドルフィン
ドルフィン
BYDドルフィン
ドルフィン ロングレンジ

そこでロングレンジモデルではリアのサスペンションがマルチリンクに変更されている(ドルフィンはトーションビーム式)ことが大きな違いである。

今回短時間ながらBYDドルフィンに試乗することができたので、第一印象をお伝えしよう。

まず乗り込んで最初に気付くのは質感の高さだ。

BYDドルフィン

組付け精度だけでなく、操作したときやスイッチ類に触れた時の触感などを含めて非常に上質な印象だ。

そして走らせてみても、その印象は変わらない。シートの座り心地もしっかりと腰あたりを支えてくれるので、長距離も楽そうだ。

BYDドルフィン

アクセルペダルを踏み込んだ時のトルクやパワーの立ち上がりも自然で、ガソリンエンジンのクルマを運転しているイメージに近い。

BYDドルフィン

それはブレーキペダルを踏み込んだ時も同様だ。パワーも必要にして十分といえる。

フロントはマクファーソンストラット、リアはトーションビームというサスペンション形式はオーソドックスだが、十分に動いてショックなどを吸収してくれるので、過不足ないものといえる。

つまり、ロングレンジのマルチリンク式は重量増とともに、高速安定性をより求めた結果と想像できた。

BYDドルフィン

一方気になったのは、レーンキープアシストのステアリング介入だ。
センターラインなどを検知すると、かなり強い力でステアリングを戻そうとするのだ。

BYDドルフィン

例えば高速の工事などで1車線規制中などのタイミングで介入されると少し怖い思いをするかもしれない。

もう一つ気になるのはシフトスイッチだ。

BYDドルフィン

確かに現在位置にすることで足元スペースなどを広く使うことが可能になった。

しかし、操作そのものがしやすいとはいえないので、独立したものでかつ、左手で操作することを踏まえたレイアウトだとよりいいだろう。

BYDドルフィンはグローバルに販売される世界戦略車ということもあり、その完成度は非常に高いといえる。

BYDドルフィン

さらに現在、CEV補助金65万円の対象車になっているので、かなり魅力的な価格となる。

今後ディーラー網が増えていくことを考えると、現在EVの購入を検討している方は、一度実際にご自身の目で確かめてみることをお勧めする。昔の中国製のちゃちさなどは一切感じられないはずだ。

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.1

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.2

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.3

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.4

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.5

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.6

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.7/ジャパンモビリティショー2023特集

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.8

出光のカーリース・ポチモへ
出光のカーリース・ポチモへ

この記事を書いた人

モータージャーナリスト/日本ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

内田 俊一うちだ しゅんいち

1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

関連する記事

カテゴリーから記事を探す

error: このページの内容は保護されています。