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モーター・フォト・ジャーナリスト

諸星 陽一もろほし よういち

カヤバが開発する新しい技術の数々[MJ]

ショックアブソーバーなどでおなじみのカヤバは、1985年からはカヤバ工業という社名でした。
2015年にKYBと社名変更しましたが、2022年からは工業が付かない「カヤバ」という社名になっています。

クルマ好きのなかではショックアブソーバーのカヤバというイメージが強いのですが、カヤバは4輪車用や2輪車用のショックアブソーバーだけでなく、建設機械、産業車両、航空機、特装車両など幅広い分野に関わる総合油圧機器メーカーです。

カヤバは独立系のためメーカーや国籍に関わらず、幅広い企業に納入をしています。

2023年9月に行われた、日本自動車ジャーナリスト協会会員向けの勉強会で試乗できた最新のショックアブソーバーについて紹介していきます。

○文:諸星 陽一

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ショックアブソーバー

KYB看板

2023年の勉強会は非常に盛りだくさんで試乗だけでなく、工場見学なども含まれていましたが、この記事ではユーザーが強く関心を持ちそうな、ショックアブソーバーについて紹介します。

カヤバはさまざまなタイプのショックアブソーバーを開発していますが、なかでも興味深いのが減衰力を調整するタイプです。

テスト車両並び

クルマのサスペンションには、バネとショックアブソーバーが使われています。

バネは伸びたり縮んだりすることでタイヤが路面から離れないようにし、凹凸のある路面でも乗り心地を確保する役目を果たしています。

しかしバネだけだと伸縮が収まるまでに時間がかかってしまいます。簡単にいうとずっとボヨンボヨンしてしまう状況です。

そこでショックアブソーバーというものを組み合わせます。
ショックアブソーバーはバネのボヨンボヨンとした動きを油圧によって抑える役目を果たします。

伸びる側をどれくらい抑えるか? 
縮む側をどれくらい抑えるか? 
速いボヨンボヨンとき、遅いボヨンボヨンのとき……
どう抑えるかなどは、減衰力という数値で表され、各条件にどう合わせるのかが開発のポイントです。

次世代ピストン&ベースバルブ

次世代ピストン&ベースバルブ1

伸縮や速度に合わせて減衰力を調整する方法の1つにショックアブソーバー内部構造を工夫するものがあります。
この手法はもっとも単純な方法ですが、多くのノウハウが必要になります。

カヤバが開発中の「次世代ピストン&ベースバルブ」は、ショックアブソーバー内を動くピストンやオイルの動きを制御するバルブを工夫したものです。

この「次世代ピストン&ベースバルブ」を装着したカムリとノーマルショックアブソーバーのカムリを乗り比べました。

大きく異なったのは段差越えのときで、ノーマルでは大きな突き上げがあったのに対し、「次世代ピストン&ベースバルブ」を採用したショックアブソーバーでは、初期のショックが抑えられていて乗り心地を稼いでいました。

高負荷価値ショックアブソーバ

さらに進化を加えたものが「高負荷価値ショックアブソーバ」と言われるタイプです。
ショックアブソーバーは伸びきったり、縮みきったりするとそれ以上伸縮せず性能を発揮できません。

そこで、伸縮しきる前に強くゆっくりと動くようにショックアブソーバーのなかにさらにショックアブソーバーを組み込んだような構造としているのが、「高負荷価値ショックアブソーバ」です。

高負荷価値ショックアブソーバ1

構造的にはショックアブソーバーの内部の上下部分に(油圧ストッパー)というパーツが組み込まれています。さらに「高負荷価値ショックアブソーバ」にはADC(バルブ域周波数感応)というパーツも組み込まれています。

試乗車はBYDのATTO3。
EVなのでかなり車両重量がありますが、油圧ストッパーがしっかりと効いているため、底付き感がなくしっかりとしていました。

セミアクティブサスペンションシステム

セミアクティブサスティグアン

ここまで紹介した2種類のショックアブソーバーは減衰力の発生具合を調整するものですが、減衰力そのものを調整する機構も存在します。

「セミアクティブサスペンションシステム」はその代表的なものです。
今回体験したのは、伸び側と縮み側をそれぞれ独立して減衰力調整できるものです。

ショックアブソーバーの筒から出っ張るようにして設置された2つの調整機構が、伸縮それぞれの減衰力を調整します。

この「セミアクティブサスペンションシステム」を装着したフォルクスワーゲンティグアンに試乗しました。

セミアクティブサス1

マニュアル操作で減衰力の強い状態にすると激しい上下動を発生しますがハンドリングはしっかしています。

一方減衰力を弱くするとキツい凹凸のある路面ではブワブワとしながらもショックのない乗り心地を確保しますが、ハンドリングは不正確になってしまいます。

減衰力を自動調整する設定にすると、乗り心地を確保しつつハンドリングもしっかりさせることが可能で、現実的ないいサスペンションとなってきます。

アフターマーケット用パーツ

こうした「セミアクティブサスペンション」は新車装着用として自動車メーカーに納入されるパーツだけではなく、アフターマーケット用パーツとしての開発も進んでいます。

今回は減衰力調整機構を伸縮同時に行うショックアブソーバーを使ったモデルに試乗しました。

セミアクティブサスアフター

試乗車はレクサスESです。

面白いのは減衰力調整についてはスマホで行えるようにしていること。
クルマにコントローラーなどを追加しなくていいため、車内もスッキリとしています。

減衰力を調整するとティグアンと同じように乗り心地やハンドリングが変化します。

何種類かの組み合わせを保存しておくことができるので、自分一人で運転、家族で移動、荷物をたくさん搭載、などパターンに合わせたセットを作り、状況に合わせて乗り心地やハンドリングを変更できます。

セミアクティブサス スマホアプリ

フルアクティブサスペンション

フルアクティブサス1

ここまで紹介したショックアブソーバーは、機械的には内部構造のみで完結するタイプですが、動力源を持ち外部から減衰力を調整するタイプもあります。

カヤバではこれを「フルアクティブサスペンション」と呼んでいます。

今回試乗した「フルアクティブサスペンション」はBMWアクティブハイブリッド5に装着されたもので、油圧ポンプによって減衰力を積極的に調整するものです。

フルアクティブサス2

ショックアブソーバーと同じ構造をしていますが、ショックアブソーバーとしてだけ働くのではないのでアクチュエーターという名称で呼ばれます。

制御なしで大きな段差のある路面を走行するとボディは激しい上下動を起こしますが、制御をオンにするとビックリするぐらいに上下動は収まりフラットな乗り心地です。

もはや同じ路面を走っているとは思えないレベルでした。今後、自動運転が進むとこうした機能はより求められてくるでしょう。

環境対応作動油「サステナルブ」

最後に紹介したいのが「環境対応作動油」と呼ばれるものです。

油圧機器に使われる油(作動油)は油由来のものがほとんどで、事故などによって環境に流れ出ると環境を汚染してしまいます。

また、機器から取り出した作動油を助燃剤として燃やされてしまうこともあります。

サステナルブ模型

カヤバではこうした事態を危惧し、作動油の基油(ベースオイル)に植物油にする研究しています。
この植物油を使った作動油をサステナブルなルブ(油脂)ということで、サステナルブと名付け、現在、全日本ラリー選手権などのモータースポーツを通じてテストしています。

筆者はサステナルブを使用しているショックアブソーバーを装着したカローラスポーツを試乗しました。

サステナルブ使用車両

カヤバは減衰力の立ち上がりなど、味付け部分を調整できる添加剤を開発済みで、この添加剤は石油由来の作動油以外でも使えるとのこと。

その添加剤を使っているため、かなりスポーティでしっかりした仕上がりのショックアブソーバーとなっていました。

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この記事を書いた人

モーター・フォト・ジャーナリスト

諸星 陽一もろほし よういち

モーター・フォト・ジャーナリスト。東京生まれ、東京育ち。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ボッシュ認定CDRアナリスト。

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