ジャーナリスト寄稿記事

モータージャーナリスト/日本ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

内田 俊一うちだ しゅんいち

ランボルギーニのレースを見学。魅力や来年の予定を聞いてみた。[MJ]

アウトモビリ・ランボルギーニはコロナ禍で休戦していたワンメイクレース、ランボルギーニスーパートロフェオアジアを2023年より復活させ、7月15日から16日にかけて富士スピードウェイにおいて開催された。

イタリアよりレースの関係者なども来日したので、来年以降のモータースポーツの動向なども含めてまとめてみたい。

〇文・写真:内田俊一 写真:アウトモビリ・ランボルギーニ

内田 俊一 の記事一覧

出光のカーリース・ポチモへ
出光のカーリース・ポチモへ

世界中で開催されているワンメイクレース

ランボルギーニスーパートロフェオのレースシーン。写真:内田俊一

9年目を迎えるランボルギーニのスーパートロフェオアジアシリーズ。今年は

  • 第1戦:5月5日~7日 セパン(マレーシア)
  • 第2戦:6月9日~11日 アデレード(オーストラリア)
  • 第3戦:7月14日~16日 富士スピードウェイ(日本)
  • 第4戦:8月18日~20日 エバーランドスピードウェイ(韓国)
  • 第5戦:9月8日~10日 上海(中国)
  • 第6戦:11月16日~17日 ヴァレルンガ(イタリア)

とスケジュールされ、今回の富士スピードウェイは第3戦となる。

このスーパートロフェオはアジア以外にヨーロッパと北米でも行われており、第6戦は、各地域の代表選手がイタリアのヴァレルンガサーキットに集結。

その結果をもとにグランドファイナルレースが開催され、ワールドチャンピオンが決められる。

使われるクルマはウラカンスーパートロフェオEVO2。

ランボルギーニスーパートロフェオのレースシーン。写真:内田俊一

市販車のウラカンをベースにレース仕様に仕上げられたものだが、様々なコンポーネントは市販車と共有だ。
さらに出場するクルマのタイヤや燃料、パーツなどの全てが同じ仕様であることから、最も勝敗を分けるのはドライバーの“腕”なのである。

ランボルギーニウラカン

裏方のお仕事

ランボルギーニラウンジ

このレースの運営はアウトモビリ・ランボルギーニ内にあるスクアドラコルセと呼ばれるモータースポーツ全般を司る部門が一手に引き受けている。

スーパートロフェオのレースに限っていえば、その内容はウラカンスーパートロフェオEvo2の製作からメンテナンス、運搬だけでなく、サーキット内に設営されるホスピタリティラウンジ(ドライバーだけでなく、その家族や関係者がくつろいだり食事をしたりするスペース)も用意。

ランボルギーニラウンジ

当然ピットの設営なども行う。そしてレースが終わると次のサーキットへ移動し、再び設営が行われるのだ。

富士スピードウェイでの彼らのスケジュールは次の通りだ。

土曜日からレースが開催されるので、彼らは事前に同じ週の月曜日に日本に到着。

翌火曜日にトレーラーなどで運んできたコンテナ11個の荷解きを開始し、ピット内の設備を作り上げ、ホスピタリティを用意をしたり、テントを組み立てたりする。

そして各レーシングチームが水曜日に到着し、マシンの準備を始める。

ドライバーの到着は木曜日。

金曜日から実際のレース活動が始まり、その日はプラクティス(練習)走行。

土曜日は予選と1回目レース。翌日が2回目のレースだ。

ランボルギーニスーパートロフェオのレースシーン。写真:内田俊一

夕方、レースが終わると撤収を開始し、明日の9時に荷物を全部詰めたコンテナをトラックに載せて、次のサーキット、今回でいえば韓国に向かうという凝縮し、かつ効率的なオペレーションとなっている。

レースは50分で2ドライバー体制だが、この組み合わせにレースの醍醐味のひとつがある。

その組み合わせによりいくつかのクラスに分けられるのだ。
まずはプロクラス(プロ2名)、次にプロアマクラス(プロとアマチュア)、アマチュアクラス(アマ2名)、ランボルギーニクラス(入門用)となる。

全体で1位を目指すだけでなく、それぞれのクラスで1位を目指すことが重視されているのだ。

ランボルギーニスーパートロフェオのレースシーン。写真:内田俊一

ドライバーはプロである必要はなく、レースが好きでアドレナリンが湧き上がってくるのをぜひ体験したい、あるいはランボルギーニを思い切りサーキットで走らせたいなど、スーパースポーツカーが大好きだという人であれば、誰もが参加できるのだ。

タイヤ選択も重要な要素

ランボルギーニのタイヤ

先程、このレースは腕で勝敗が決まるということを述べたが、実はもう一つ大きな要因がある。

それはタイヤだ。クルマの中で唯一地面に接地しているのがタイヤで、どんなに素晴らしいクルマであり、またどんなにすばらしい腕があったとしてもタイヤがダメであれば完走すら難しくなる。

スーパートロフェオではハンコックから供給される2種類のタイヤで競われる。

ひとつはスリックタイヤで晴れの日用。もうひとつは雨の日用のレインタイヤだ。

スリックは溝がなく接地面を稼げるのでコーナリング時などのパフォーマンスを発揮できる半面、雨などでは水はけができないので簡単に滑ってしまう。

そのためにレインタイヤでは通常のタイヤのように接地面に溝が刻まれており、その日の天候やコースの状況によって各チームがどちらのタイヤを使うかを選択するのだ。

ここでキーになるのが、曇りや雨あがりだ。

これから雨が降るのか、あるいはコースが乾いていくのかによってタイヤ選択が変わっていく。この選択次第で優勝争いに加われるかどうかにかかってくるである。

ランボルギーニスーパートロフェオのレースシーン

ひとつ興味深いタイヤの話を聞くことができたので記しておこう。

このレースで使われるタイヤは大体250kmから300kmほどは使え、各チーム、1レースで4セットから5セットは使用するそうだ。

ランボルギーニスーパートロフェオのレースシーン

タイヤ1セットでだいたい2250ユーロなので、日本円で35万円くらい。
それを4から5セット使用するので、週末1回のレースでタイヤだけで1万4000ユーロ、170万から180万円くらいになるそうだ。

少しクルマを見てみよう。

ランボルギーニスーパートロフェオのレースシーン

前述の通り市販車のウラカンをベースとしているが、エンジンは縦置きV型10気筒で排気量は5,204ccと変わらないが、最高出力620ps/8,250rpm、最大トルクは570Nm /6,500 rpmとベース車となるウラカンクーペ(LP610-4)の610ps/8,250rpm、560Nm/6,500rpmよりも10ps、10Nmアップしている。

ランボルギーニの運転席

そのほかレース用としては、安全性を確保するためロールバーや体を安定させるためのバケットシートが用いられているほか、トラクションコントロール(アクセルを踏み込んだ時にタイヤが空転してしまうことを防ぐシステム)やABS(強くブレーキを掛けた時にタイヤがロックすることを防ぐシステム)をドライバーの好みでその強さを制御できるよう室内にスイッチが用意されている。

ランボルギーニのブレーキ
ランボルギーニの運転席

今回のレースは2日間にわたり行われ、クラッシュ等も見られたが、全般的に非常にフェアなレース展開が見られたのは、“ジェントルマンドライバー”、紳士的なドライバーの集まりということが伺えた。

ウラカンの次期車でも継続してレース活動を行う

ランボルギーニの人たち

ここからは、イタリアからモータースポーツ部門の副社長等が来日し、インタビューが出来たので、このレースの魅力とともに、ランボルギーニは来年、新たなカテゴリーに挑戦するのでその活動についてまとめておく。

コロナ禍のため3年ぶりにアジアシリーズが再開したが、その点についてアウトモビリ・ランボルギーニのモータースポーツ担当副社長のマウリツィオ・レッジャーニさんは、

「アジアシリーズの再開は本当に大きな成功のひとつ。3年ぶりにも関わらず、多くの方々がロイヤリティを持って引き続きスーパートロフェオに参戦してくれましたので、GT3や今後挑戦する予定の他のカテゴリーへの自信を深めることにもなりました」とコメント。

マウリツィオ・レッジャーニ

また、アウトモビリ・ランボルギーニアジア太平洋地区代表のフランチェスコ・クレシさんは、
「今回はこれまでで一番成功したスーパートロフェオになりました。日本では20台エントリーがあったのです。さらに、いろいろな国からエントリーをいただけました、台湾、タイ、香港、中国、日本、韓国、それからオーストラリアとニュージーランドからもです。
本当にアジア太平洋地域全域に渡ってカバーできたのは本当に良かったです。中でも日本は本当に一番大きな貢献をしていただいていることに間違いはありません」とのこと。

では、このスーパートロフェオの魅力は何だろう。

マウリツィオさんは、
「スーパートロフェオシリーズを最初に始めた時に目指したのは、他のクルマにないような極端でパワフルでスポーティなクルマを作ることでした。
ウラカンスーパートロフェオは市販車に非常に近いクルマである一方、レース専用のGT3カテゴリーのクルマにも近い仕上りです。ですから、当初から狙っていたことは成功したと思っています」とクルマに関して高く評価。

同時に、「スーパートロフェオのレースで経験を積んだ方が、上手くなってGT3のクルマに乗る、つまりプロのドライバーになってGT3へステップアップしていくことができるカテゴリーでもあるのです。それがこのシリーズの成功の大きな理由でしょう」と述べる。

マウリツィオ・レッジャーニ

一方でレースは車両開発の実験場という意味合いもある。スーパートロフェオから市販車にフィードバックされたことはあるのだろうか。

「2009年のガヤルド以来、そういったことはしています」とマウリツィオさん。
具体的にはエアロダイナミクスやブレーキだけでなく、車両全体のバランスのとり方などもあるという。

中でも、「ウラカンSTOが一番顕著な例」だとマウリツィオさん。このSTOとは“スーパー・トロフェオ・オモロガータ”の略で、スーパートロフェオの市販車バージョンという意味だ。

「クルマの挙動やエアロダイナミクス、ブレーキシステムはまさにスーパートロフェオで培った経験をそのままフィードバックして開発したものです」と教えてくれた。

さて、来年以降はどう計画されているのか。

マウリツィオさんは、「もちろんさらに進化させたいのですが、ウラカンの後継モデルが来年出てきますので、そのクルマをベースとして次のスーパートロフェオに使いたいなと思っています」と話す。

さらに、「エンジンはポウタウリ戦略(ランボルギーニの電動化戦略)の一環として市販車はハイブリッドになります。しかし、レース用のクルマは通常の内燃機関エンジンです」とのことだった。

いよいよル・マン24時間レースなどにも参戦

もうひとつ、来年からランボルギーニは初のハイブリッドレーシングプロトタイプで、2024年にFIA世界耐久選手権(ハイパーカークラス)とIMSAウェザーテックスポーツカー選手権(GTPクラス)に挑戦。

ル・マン24時間レースやデイトナ24時間レースなど、世界で最も権威のある耐久レースに参戦するのだ。

そのクルマの名をSC63といい、スクデリア・コルセの頭文字と63はランボルギーニ設立年、1963年を指す。

ランボルギーニSC63

マウリツィオさんは、「来年のカタールの初戦にエントリーすることを目標としています。その後セブリング12時間を予定しています。
さらに日本市場は熱心なモータースポーツファンが多いので、WEC(日本戦は2024年9月15日に富士スピードウェイで開催)に参戦することは日本の市場にも合致したことでしょう」と計画を明かす。

そして、「今回の挑戦は、ランボルギーニのモータースポーツの歴史の中でも最大のチャレンジといっていいでしょう。ですから会社としてもフルでコミットしており、本当に特別なことだと捉えています。
3.8リッター8気筒ツインターボエンジンを搭載しコールドV、つまりV角の外側にターボがついている仕様で、冷却性能に優れた仕様です」という。

発表データによると、500psを発揮するようだ。

ランボルギーニSC63

最後に来年の目標を聞いてみよう。
マウリッツィオさんは笑いながら、「レースをしている会社は、どこもレースに勝つことを目指します。それだけだと思いますよ」と話す。

「来年のWECについては主要なブランドがどこも参戦しいずれも優勝を目指して戦っています。その中にランボルギーニは新しく参戦するわけですが、良い意味でサプライズになればいいなと思っています。
もちろん競争力があるマシンですから優勝することもあれば、2位や3位で終わることもあるでしょう。ただ、常にレースの主役であり続けることはぜひチャレンジしたいですね。それによってランボルギーニも(レース界も含めた)主要なブランドだということを世に知らしめたいのです。
これまでを振り返ってもGT3カテゴリーのときは1年目からかなり競争力がありましたので、来年この新しいSC63でも同じように最初から強く戦いたいと思っています」と意気込みを語ってくれた。

ここ数年、ランボルギーニは積極的にレース活動も行い、それを市販車にフィードバックしてきたことは前述のとおりだ。

そこには情熱だけではない、冷静なデータ分析などに基づいた研究と開発が行われている。当然デザインにおいても空力をはじめとした様々なレースから得た知見がもとになっている。

つまりひとつひとつがエンジニアリングから生まれたものといっていい。
もしどこかでランボルギーニの各車を見る機会があったら、そういう視点で細部まで見てみると新たな発見があるかもしれない。

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.1

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.2

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.3

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.4

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.5

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.6

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.7/ジャパンモビリティショー2023特集

モータージャーナリストレポート一覧 Vol.8

出光のカーリース・ポチモへ
出光のカーリース・ポチモへ

この記事を書いた人

モータージャーナリスト/日本ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

内田 俊一うちだ しゅんいち

1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

関連する記事

カテゴリーから記事を探す

error: このページの内容は保護されています。