ジャーナリスト寄稿記事

モータージャーナリスト/日本ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

内田 俊一うちだ しゅんいち

いつの時代にデザインされたのかわからない、新型MINIクーパーに込められたデザインの意図とは[MJ]

MINIの3ドアがフルモデルチェンジし、MINIクーパーとしてデビューした。

そのラインナップにはこれまで同様ガソリンエンジンモデルとともに電気自動車(BEV)のクーパーEと、その高性能版のクーパーSEも追加された。

minicooper写真:内田俊一

そう、MINIもついに電気自動車を取りそろえるに至ったのだ。

MINIクーパーのガソリンモデルとBEVではボディサイズやデザインが若干異なっている。
そこでデザイン担当者にBEVモデルの特徴や思いなどを聞いてみた。

〇文:内田俊一 写真:内田俊一 BMW

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カリスマ的なシンプルさ

minicooper写真:内田俊一

いまから5~6年前にMINIクーパーのデザイン開発は始まった。

そのときにまず何を行ったのか。
それは「MINIのアイデンティティを理解すること」と話すのはMINIデザイン部門責任者のオリバー・ハイルマーさんだ。

MINIデザイン部門責任者のオリバー・ハイルマーさん
MINIデザイン部門責任者 オリバー・ハイルマー氏

サー・アレック・イシゴニスが作ったクラシックMINIの大きな特徴のひとつにクラスレスというものがある。英国は階級社会なので、アッパーとロワーでは乗るクルマさえ違っている。

しかしクラシックMINIはそのどちらからも愛され、中にはロールスロイスの隣にクラシックMINIが並んでいるガレージもあった。

その理由は何にも似ていないシンプルなデザインと、ミニマルな設計思想にあった。そこにオリバーさんたちは着目。「これこそがMINIのアイデンティティだと理解しました」という。

MINIデザイン部門責任者のオリバー・ハイルマーさん

そこで新型ではクラシックMINIの万人に愛され人々を惹き付ける魅力をカリスマ性と捉え、それとシンプルさを合わせた“カリスマ的なシンプルさ”を再び現代によみがえらせようとデザインに取り組んでいったのだ。

ホラー映画を音なしで見てみると!?

そのカリスマ性の例を挙げると、MINI独特の丸型ディスプレイがある。

クラシックMINIから始まるこのセンターメーターは、当時からシンプルで見やすい表示が特徴であり、そのシンプルさから好評を博した。

minicooperセンターパネル。写真:内田俊一

そこで新型ではそこに加えて色や表示、そして音までがデザインされた。

スクリーンは様々なカスタマイズが可能で、ドライビングモードなどを含めて変化する。

その中にはクラシックMINIを彷彿させるようなタイムレスモードもあり、少しアイボリーがかったカラーで懐かしさを演出。

minicooperセンターパネル、タイムレスモード。写真:内田俊一

ほかにもMINIのキャラクター“スパイク”が出てきたりもする。

minicooperセンターパネルにスパイク。写真:内田俊一

そして新型に込められた様々なサウンドにもこだわりがあった。「クラシックMINIにマイクを当ててその音を聞きながらサウンドデザイナーが解釈し、ジングル音などを作ったんです」とオリバーさん。

なぜそこまで注力したのか。
その理由は、「人間は目で見た時よりも音の方が反応しやすいのです。だから警告音や通知音はもとより、他車との差別化のために、BEVであっても車外に向けてのMINIらしいサウンドだけでなく、ドライバーの感情を揺さぶるようなドライビングサウンドなどを作り上げました」と話す。

ここでオリバーさんは面白い例え話をしてくれた。
「ホラー映画を見たことはありますか?もしこの映画を音なしで見てみることを想像してください。まさに“ぞっと”しないでしょう(笑)。それにインパクトもないと思うのです。つまりいかに音が大きな役割を果たすかということです」と述べていた。

デザインマジックの妙

minicooper写真:内田俊一

さて、新型MINIクーパーS/SEのエクステリアを見てみると、先代から大きく変わったようには見えない。
しかしそのサイズは全長が短くなった一方、ホイールベースは伸ばされたので後席の居住性が確保された。

同時にタイヤを四隅に配することでプロポーションをより良く見せるようにした。

minicooper写真:内田俊一

さらにBEVなのでバッテリーを床面に配する関係で、どうしても全高が高くなりがちになるが、先代からわずかに高くなったレベルということは高く評価したい。

それでもわずかに高くなったことを感じさせないためにある手法がとられた。

minicooper写真:内田俊一

特にMINIはゴーカートフィーリングと呼ばれるまるでゴーカートに乗っているかのようなドライビングが持ち味だ。

それをデザインでも表現するために低重心感を強調しようと、サイドのハイライトライン(ボディの曲面が最も膨らみ、そこに光を受けてできるライン)が少し下げられ、これまでドアハンドルよりも上に位置していたところからドアハンドルよりも下にになった。

こうすることで目線が下に行くので低重心感が強調されることに繋がるのだ。

ヘルメットルーフがなくなったカントリーマン

miniカントリーマン。写真:内田俊一

今回MINIクーパーとともに過日フルモデルチェンジしたカントリーマン(旧クラブマン)にもBEVが追加された。

その2台を眺めていて気付いたのだが、MINI独特のデザインのひとつ、ヘルメットルーフ(文字通りヘルメットをかぶっているかのようにぐるりと一周ルーフラインが途切れなく続いている)がカントリーマンでは廃されていたのだ。

もちろんMINIクーパーは先代を踏襲しヘルメットルーフを用いている。

MINIデザイン部門責任者のオリバー・ハイルマーさん2

オリバーさんにそのわけを尋ねると、「大胆、安定、そして成熟がカントリーマンのキーワード」と述べたうえで、クーパーと比較すると、「ボディカラーがフロントグリルに入っているところは共通」とMINIファミリーであることを強調。

miniカントリーマン。写真:内田俊一

しかしカントリーマンのルーフはラゲッジルーム拡大とエアロダイナミクス改善が主な目的で延長されたので、そこを「長く見えないようにルーフにサイドスカットル(サイドの荷室部分のウインドウにあるでっぱり)を用いました。まるでサーフボードのフィンのように見えるでしょう。
でも違うんですよ。そしてその先にはリアホイールがあるように見せていますので、実際のサイズよりもコンパクトに感じられるのです」とデザインによるテクニックを教えてくれた。

miniカントリーマン。写真:内田俊一

常に最新のMINIをデザインするためにはクラシックMINIがスタート地点にあることは必須といえる。

その上で時代時代の空気感やデザイナーの解釈などから、新しさを感じさせるようにデザインされ生み出されてきた。

miniカントリーマンのデザインスケッチ

新型MINIクーパーでもフロントグリルの形状やヘッドライトの丸みなどがそうだし、インテリアでも前述のセンターメーターや電源のオンオフ(エンジンであればスタート&ストップ)もクラシックMINIを模したキー形状のスイッチをひねるようになっている。

miniクーパー運転席。写真:内田俊一

そうしながらもオリバーさんが目指したのはタイムレスデザインだった。
「いつの時代にデザインされたのかわからないものを実現したいと思ったんです。ですからいまの時代にしか生きられないものではなく、チャールズ&レイイムズという家具メーカーのもののように長きにわたって愛されるようなクルマをデザインしたかったのです」と話してくれた。

miniクーパーデザインスケッチ

この考えはまさにクラシックMINIに通じるものだ。
こればかりは今すぐに結論が出るものではないので、数年先、あるいは数十年先にこのMINIクーパーがどう見えるか、楽しみにしていたい。

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この記事を書いた人

モータージャーナリスト/日本ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

内田 俊一うちだ しゅんいち

1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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