クオン(Quon)GW6×4試乗記|2024年問題の打開策となるか[MJ]
○文:丸山 誠
街を走っていると横に並んだ大型トラックの大きさを実感し、見下ろされていると感じることがあるだろう。
トラックは働くクルマで生活を支えてくれる物流の要でもある。
スマホを使いECサイトでポチッとすると、早ければ翌日に商品が届くこともあるわけで、その商品移動はトラックなどに頼っている。
物流業界だけでなく、私たちの生活にも影響が出るかもしれない「2024年問題」についても考えたい。
INDEX
大型トラクタ クオンGW6×4
今回試乗したのは、UDトラックス(以下UD)の最新フラッグモデル大型トラクタのクオンGW6×4。
UDはじつに16年ぶりにフラッグシップモデルを発売した。
トラクタ? トラックじゃないの? と思う方もいるだろうが、トラクタは物流コンテナなどを載せたトレーラーをけん引するためのトラックこと。
トラックの一種でけん引タイプをトラクタと呼ぶ。
トラクタヘッドなどとも呼ばれ、重いトレーラーをけん引するために優れた動力性能と高い操縦安定性が求められる。
トラックとは同じようで、じつは操縦性などが異なっている。
公道を運転するためにはもちろんけん引免許が必要で、大型免許を持っているだけでは運転できない。
トラックの荷台に相当するところに、トレーラーを連結する機構となる丸い円盤状のカプラーと呼ばれる装置がある。
トレーラー連結して最大の荷物を積んだ状態を連結車両総重量(GCW)といい、クオンは54.8トンから86トンとトラクタのなかでも大きなモデルをラインアップ。
重いトレーラーをけん引できるタイプを「重トラクタクラス」と呼ぶが、UDシェアがトップ。
長年クオンに乗っているドライバーからはGWを復活してほしいという声が多く、ようやく復活したわけだ。
クオンGW6×4の運転性能
クオンGW6×4は高出力、大トルクの直6ディーゼルGH13エンジンを採用。
排気量が13Lにもなる大型エンジンで、最高出力530馬力、最大トルク2601Nmとクラストップレベル。
エンジン
ベースエンジンはボルボ(ボルボトラックは乗用車とは関係ない)の流れをくむもので、じつはクオンGW6×4にはボルボのノウハウが生かされている。
オーバル(楕円)形状の周回路での試乗車は、積荷20トンのトレーラーを連結したGW6×4エアサスペンション仕様で、連結車両総重量は40トン。
20トンの荷物を積載したトレーラーをけん引しているとは思えないスムーズな発進で、通常のトラックより滑らかに感じるほど運転席に揺れが伝わってこない。
このクラスの国産車でリヤにエアサスを設定するのは初めてだ。
凹凸がある路面で発進したが左右にロールする揺れが少ないのは、連結装置であるカプラーが通常は前後方向にだけ動くのだが、左右方向にも動くため揺れを小さくしている。
大きな車両を運転しているということを忘れてしまうほどスムーズで、乗用車に近い乗り心地だ。
直線で加速すると直6ディーゼルGH13エンジンの530馬力、2601Nmの実力がわかる。
あっという間に60km/hまで加速でき、20トンの荷物を載せたトレーラーを引っ張っているとは思えないほど短時間で加速できる。
これなら首都高の合流でもスムーズに走れるはずだ。
加速のよさは新世代に進化したトランスミッションのESCOT(エスコット)-Ⅶの効果も大きい。従来と比べ変速スピードが速くなったため変速時の失速感がまったくない。
60km/hを超えると操舵力が少しだけ重くなり、パワーステアリングは速度感応式で60km/hを境に操舵力が切り替わる。
ADAS
最新のトラクタらしくADAS(先進運転支援装置)が充実。
ACCも装備していてUDは「トラフィックアイクルーズ(車間距離制御装置)」と呼ぶ。
乗用車で一般的になりつつある先行車追従の車間距離維持制御もでき、渋滞時には先行車に合わせて減速して停車制御まで行う。
前方車両との車間距離はフロントグリル下端に付けられたミリ波レーダーで先行車など検知する。
UDアクティブステアリングはLDP(車線逸脱抑制機能)も持っている。
60km/h以上で走行中に走行車線から逸脱すると、ステアリングが自動的に操舵されて元の車線に戻る。
これも乗用車で一般的になりつつあるが、トラクタもこうした装備によってより安全性が高まっている。
車線を超えると素早い操舵で元のレーンに戻り、揺れ戻しがなく安定していた。
試乗時間が夕方だったため西日で逆光状態になり、カメラが車線を読み取りにくかったのか、車線をはみ出しても作動しないこともあった。
もちろん制御の主体はドライバーであり、ADASはあくまで補助のため、最終的にはドライバーの的確な操作必要だ。
総輪ディスクブレーキ
GW6×4は総輪ディスクブレーキが標準装備。
ディスクブレーキは乗用車では当たり前だが、トラックやバスでは一部にしか使われていない。
ヨーロッパはほとんどがディスクなのに対し、国産トラックやバスは採用例が少ない。過去にバスでディスクを採用したが、ドラム式に戻されてしまった例もある。
ドラムブレーキが採用される理由は、メンテナンスコストが抑えられるからだ。
摩擦材のシューが長持ちするため交換距離が長いが、ディスクブレーキのパッドは一般的には交換距離が短い。
リターダー
GW6×4は補助ブレーキの流体式リターダーを採用することで、主ブレーキのパッドの摩耗を抑えているのがポイント。
高速域からリターダーをテストするため、フットブレーキを踏まずにステアリングポスト左側に付けられたリターダーレバーを4段階の一番強力なポジジョンにする。
するとまるでフットブレーキを踏んでいるかのように強力に減速。フットブレーキを使う必要ないほど強力な減速が得られる。
ブレーキトルクはエンジンの最大トルクを上まわる3250Nmと超強力。
そのため補助ブレーキだけで停止寸前まで減速ができるわけだ。
以前観光バスが下り坂でフェードによって重大な事故を起こしたが、このような強力な補助ブレーキがあればフェードしにくいため安全性が高い。
悪路走行
コースを変えて今度は悪路で、ここもエアサスペンション仕様に試乗。
トレーラーはけん引せずにヘッドのみで走行するが、路面左右がくぼんでいる波状路での走行では、車体が左右に大きく揺れるがステアリングに手を添えているだけ真っ直ぐ進んでくれる。
ステアリングを修正する必要はほとんどなく、車体からの振動を和らげるサスペンションシートのおかげもあって優しい乗り心地だった。
通常ならステアリングをしっかりと持っていないと真っ直ぐ走れないはずだが、UDアクティブステアリングの効果で手を添えているだけで走ることができる。
アクティブステアはボルボが採用するタイプと同じで、油圧パワーステアリングとモーターを組み合わせることで運転操作をアシスト。
あらゆるセンサーから情報を得て、ステアリングの重さに適切なトルクを付加するという。
操舵力の軽さ
大きく重いボディに対して操舵感は極めて軽い。あっけないほど軽く、軽乗用車より操舵力がいらないのだ。
ドライバーはステアリングから路面状況を知ることは困難だろう。
だが、これが大型車には重要なのだという。
開発エンジニアによると、仕事で運転するため疲れない操作系が好まれるという。
意外だったのはヨーロッパのドライバーはもっと軽い設定で、ボルボはもっと軽い仕様になっているという。
操舵力の軽さは女性ドライバーにも優しい設定だ。
後輪4つが駆動するGW6×4が威力を発揮するのが悪路での坂道発進。
タイヤが空転するような荒地の坂でも、タイヤの滑りを抑えるトラクションコントロールが作動して上ることができる。
デフロックも用意されているので作動させれば、タイヤが空転することもない。
採石場などでダンプトレーラーをけん引しても、駆動輪が滑ることが少ないので、安心してドライブできる。
ボルボとの共通点が多い理由
クオンGW6×4がボルボと共通点が多い理由は、前身の会社が2007年にボルボに売却され、2010年に日本ボルボが吸収合併すると同時にUDトラックスに社名を変更したからだ。
2020年にはいすゞ自動車がボルボ・グループと戦略的提携を結んだことで、いすゞ自動車がボルボからUDトラックスを買収。
事実上の親会社となるいすゞと協業した製品の第一弾が、今回試乗したクオンGW6×4。
いすゞもクオンGW6×4のOEM車となる、新型トラクタのギガを発売している。
2024年問題
冒頭で書いた2024年問題は、働き方改革によって2024年4月からドライバーの年間時間外労働の上限が960時間に制限され、ドライバーがさらに不足すること。
さらに労働時間が制限されることで、収入が減少するため離職ドライバーが増える。物流が混乱し、最悪の場合トラックによる物流量が減少する可能性もある。
今回試乗したクオンGW6×4のように、ほかのトラックも動力性能と快適性も向上すれば、もっと女性ドライバーが増えてドライバー不足の問題を解決できるかもしれない。
少なくともクオンGW6×4登場は、2024年問題の一助になることだろう。