【VW】T-クロスカッパースタイル、T-Roc Rラインブラックスタイル、ID.4ライトに試乗[MJ]
フォルクスワーゲンのオールラインアップ試乗会が開催され、2023年に追加となった3種のモデル。
T-クロスカッパースタイル、T-Roc Rラインブラックスタイル、ID.4ライトの3車種に試乗した。
◯文:諸星 陽一
T-クロスカッパースタイル
T-クロスは日本に導入されているSUVモデルのなかで、もっともコンパクトなモデル。
ホイールベースは2500mmで、全長×全幅×全高は4115×1760×1580mm。
マツダCX-3やトヨタ・ライズ&ダイハツ・ロッキーと同じくらいのボディサイズとなる。
搭載されるエンジンは、999ccの3気筒ターボで最高出力は116馬力、最大トルクは200Nmとなる。
試乗車のカッパースタイルは205/55R17タイヤ、ACCなどが標準となるTSIスタイルがベース。
そこにナビ&オーディオ関連のディスカバープロパッケージ、ADAS関連のテクノロジーパッケージ、ハイビームアシストやパークアシストなどがセットになったセーフティパッケージの3パッケージも標準装備。
さらにカッパースタイルの名のとおり、ドアミラーカバー、ダッシュパッド、センターコンソール、カッパー(銅)色の6.5Jx17アルミホイールが専用装備として装着される。
T-クロスは2019年に日本に導入されたモデルで、それ以降機能的な変更は行われていない。
1リットルクラスの3気筒ターボは日本のでもよく見られるエンジンタイプだが、フォルクスワーゲンのものは歴史もありしっかりとした印象。
ただしターボによる過給が少ない低回転時は若干トルク感が低い印象。とはいえ、回転が上がってくればそれも気にならない。
T-クロスのミッションは7速のDSG、日本車の多くはCVTを使う。
DSGはマニュアルミッションを2ペダル化した装置で有段ギヤである。一方のCVTは無段変速である。
DSGはマニュアル操作をするとまるで、マニュアル車のような走りが楽しめるのが魅力だが、マニュアル車同様にクラッチプレートが摩耗によって減る。
走行条件にもよるが、クラッチのオーバーホールとプレート関連の交換が必要。それがランニングコストに響くことを承知して購入することが大切だ。
3気筒車独特のエンジン振動は消し切れておらず、低速時は振動を感じる。
低速走行ではタイヤの振動も伝わるので、あまり快適とは言えない。
しかし、高速道路に入るとこれが一変。快適で安心感あふれる走りに変わる。
欧州車、とくにドイツ車はアウトバーンを走ることを念頭に作られているので高速安定感が高いのである。
カッパースタイルは装備が満載となり価格が387万円の車両本体価格である。国産同クラスと比較するとかなり高めのプライスである。
T-Roc Rライン ブラックスタイル
T-RocはT-クロスの上に位置するSUV。2020年の導入モデルで当初はディーゼル車のみの設定。
2021年にガソリンモデルを追加、2022年にはマイナーチェンジし、ガソリンのハイパワーモデルにあたる「T-Roc R」を追加した。
今回の試乗車は2リットルの4気筒ディーゼルエンジンを搭載するTDI。
最高出力は150馬力だが、最大トルクは340Nmと強力だ。
発進トルクの力強さはさすがディーゼル。タイヤがグッと路面をつかんでしっかりと加速していく。
この加速の力強さはもちろん魅力にあふれているのだが、それにも増してボディやサスペンションがしっかりしていることに関心させられる。
クルマによってはボディやサスがゆるく、エンジンの駆動トルクをしっかりと伝えられなかったり、加速することで不安定になることもある。
ゆるい靴を履いて全力ダッシュしたときの感じを思ってもらえばいい。
ディーゼルの乗用車に乗ったことがない人は、トラックのようなイメージを持っているかもしれないが、じつはディーゼルエンジンは低速から力強く加速してくれるので、乗用車用のエンジンとしても高い性能を持っている。
回転数を上げないでも速度が上げられるのは非常に運転しやすいものだ。
ディーゼルのよさは高速道路でとくに強調される。
回転数が変わってもトルクの変動が少ないので、一定速度で走る際にギクシャクした感じがないのだ。
だったらEVのほうが優れているという意見もある。
もちろん、一定速度で走るだけならEVのほうが優れているが、さまざまな理由でEVには移行できない人もいる。
そうしたときに長距離メインで考えるならディーゼルエンジン車は、選択肢として大きなウエイトを持つ。
ひとつ大きな課題が価格面だ。
試乗車の車両本体価格は501万5000円で、オプションのDCCパッケージ(可変サスペンション)が23万1000円となる。500万円を軽く超えてしまう価格は、さすがに負担として大きい。
ID.4ライト
ID.4はフォルクスワーゲン初となるEV専用車。
ボディタイプはSUVで、全長×全幅×全高は4585×1850×1640mm。欧州車は全幅を広げることには抵抗がなく、全長を伸ばすことは極力避けるという。
これは路上で縦列駐車をすることが当たり前という使い方をするからだと言われている。
2022年にデビューした際はローンチエディションというモデルであった。
ローンチエディションは77kWhバッテリーと52kWhバッテリーの2タイプがあり、77kWhを積むプロは561km、52kWhを積むライトは388kmの走行が可能であった。
現在はこのローンチエディションから標準タイプに進化しており、プロ(77kWh)の走行可能距離は618km、ライト(52kWh)の走行可能距離は435kmに伸びている。
この走行距離の向上はバッテリーなどのハードウエアの変更によるものではなく、ソフトウエアの進化によるものだという。
試乗車は標準タイプのライト。バッテリー以外でプロとの大きな違いはタイヤサイズだ。
プロのタイヤサイズはフロントが235/50R20、リヤが255/45R20。
これに対しライトは前後とも235/60R18サイズを履く。このタイヤ、サイドウォールがプックリ膨らんで、最近のトレンドとは異なるかもしれないが、このタイヤのおかげでID.4はゆったりと乗り心地のいいフィールを実現している。
現代のクルマは扁平率の低いものが多いが、その手のタイヤはどうしたって乗り心地にカドがある。
このID.4ライトは段差乗り越えなどを含めて、じつにソフトで気持ちのいいフィールを持っている。
EVはバッテリーを床下に搭載するのが当たり前なので、基本的に重心がかなり低くなる。
そこから生まれるハンドリングはおしなべていいものだ。ID.4もその例に漏れることなくじつに快適で安定している。
ワインディングを走ってもハンドリングは軽快。これはID.4がリヤ駆動であることも大きく影響している。
前輪は操舵のみ、後輪は駆動のみという担当分けはやはり秀逸だ。おかげで前輪の切れ角も大きく取れるため、小回りも効く。
このように使い勝手のいいID.4ではあるが、足りない部分もある。
まず、回生量の調整ができない。パドルスイッチなどで回生量の調整ができると、効率よくエネルギーを使うことが可能。それができないのはEVに乗っていてストレスにもなる。
また、助手席からシステムをダウンさせたり、セレクターをP入れたりできないレイアウトも問題。
ドライバーが気を失ったときなどに、対処できる方策をするべきだ。
こうした問題は左ハンドルのレイアウトをそのまま右に移しただけだからおきる。きちんと設計し直せば起きないことだ。
ID.4ライトは514万2000円となかなかのプライスであるが、国の補助金が65万円支給される。
さらに自治体からも補助金があり、東京都の場合なら45万円が支給される。
もちろん、自宅で充電できない、長距離移動が基本なのでバッテリー容量が足りないなどといった購入条件を満たさないことがあれば、ショッピングリストからは外れるが、条件が合うならば買い得である。