ジャーナリスト寄稿記事

モータージャーナリスト/日本ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

内田 俊一うちだ しゅんいち

日産エクストレイルの長距離試乗体験記〜走りにも上質さを求めて〜[MJ]

日産自動車から昨年デビューした新型エクストレイル。
e-POWERとe-4ORCEという技術を組み合わせた魅力的なクルマとして登場した。

ちょうど鈴鹿サーキットでの取材があったので、東京からの往復の足として借り出すことに成功。トータルで1160kmほど走らせたので、その印象をまとめてみたい。
今回のテスト車はエクストレイルG e-4ORCEの2列仕様車(スタッドレス装着車)であった。

〇文・写真:内田俊一

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VCターボとe-4ORSE

日産エクストレイル、写真:内田俊一

まずはエクストレイルの概要について触れておきたい。

エクストレイルは、初代、2代と本格SUVとしての走りと使い勝手の良い装備で、タフギヤとして親しまれてきた。先代となる3代目では、これらに加えて、プロパイロットをはじめとした先進技術で人気を博す。

そして新型を開発する際、市場を見渡すとこのセグメントのお客様のニーズに変化が見られた。それは本格SUV性能に加えて、上質さが求められていたのだ。

初代や2代目の時代はエクストレイルに近い競合車はあまり見られなかったが、近年様々な競合車が出現し、市場がさらに活性化したことで、こういったニーズが出てきたのだ。
そこで日産もより多くのユーザーにエクストレイルの購入をしてほしいことから、この市場ニーズに応えたかたちである。

デザイン的には別項に記しているのでそちらをご覧いただくとして、メカニカル的には大きく2つのポイントがある。

日産エクストレイル、写真:内田俊一

ひとつは世界初となる可変圧縮比VCターボと組み合わせたe-POWER。もうひとつがリアに追加したモーターとシャシーを統合制御し、四輪駆動制御を行うe-4ORCEである。

VCターボe-POWERは、これまで通りの本格SUVとしての力強い走りに加え、上質さとして圧倒的な静かさを実現するために採用された。これまでのe-POWERに比べ、フロント、リアのモーターをパワーアップさせ、これをサポートするために、パワーアップした可変圧縮比のVCターボが組み合わされたのだ。

e-POWERはエンジンで発電した電気を使い、100%モーターで駆動するのでEVと同様に素早く力強く、滑らかな加速が可能だ。

一方で加速を良くすると、当然発電も必要になるので、エンジン回転が高まり静かさは犠牲になる。
しかし、エクストレイルでは、全開加速時の会話のしやすさという指標で見ると、むしろ先代より改善をしているのだ。
これはエンジンの圧縮比を変えられるVCターボが、常用域では向上したトルクを活かしてエンジンの回転数を抑えながら高圧縮比で効率よく発電し、フル加速時には圧縮比を下げ、大排気量車並みの大トルクで、低速時には回転を抑えつつ、高速になるにつれて回転数を上げることで、静かさを実現したとエンジニアは説明する。

さらに静粛性では一新されたプラットフォームにより車体やシャシーの剛性が向上し、車内に入って来る振動レベルを落とすことができた。
また、音を遮閉・吸収する材料も一新し、穴周りといった細かいところまで気を配ることで、室内に侵入してくる音を抑えることに成功しているという。

日産エクストレイル、写真:内田俊一

続いてe-4ORCEは、本格SUVとしてのオフロードや雪道での操作性に加えて、オンロードでの意のままの走り、快適な乗り心地を実現するために採用された。

今回の四輪駆動車はリアにモーターを追加し、モーターとブレーキの統合制御により、路面と車両の走行状況によってモーターの駆動力やブレーキをきめ細かくコントロール。各タイヤの性能を引き出し、雪道やオフロードでの走破性、ワインディングやコーナリングでの意のままの走り、市街地走行での減速時の前後の揺れの低減など、あらゆるシーンでの快適さが実現できたのである。

具体的なシーンで説明すると、コーナリング時には、普段は前輪を駆動しながら、コーナリングに入る状態を検知すると、前にあった駆動力を後ろに移していく。これは主に曲がる力を発生するフロントタイヤの駆動力を後ろに持ってくることによって、より安定的に曲がる力を確保するためだ。
加えてブレーキとも連動し、内側のタイヤにブレーキをかけながら外側を駆動することで、より曲がりやすくする力を発生させることが可能なのだ。

また、減速時に路面状態を瞬時に検知してリア側でも回生ブレーキを作動させることにより、前方に車体が傾く度合いを抑えることができ、乗り心地を向上。これは自転車を運転している時に前後両方のブレーキを掛けてバランスよく止まることで、前方へ倒れかかることが減るという体験と似たような原理である。

この前後のモーターとブレーキを統合して制御することによって、4輪の状況を細やかに素早く制御することができるので、本格SUVとしての雪道やオフロードでの走破性に加えて、ワインディングでの意のままの走り、市街地でのフラットで滑らかな乗り心地を実現することに貢献しているのだ。

また、日産ではおなじみとなったプロパイロットも引き続き搭載されたが、スカイラインなどのプロパイロット2.0ではないため、高速道路でステアリングから手を放して走行させることはできない。

街中では視界も良く乗りやすく

日産エクストレイル、写真:内田俊一

では、このような機能を持つエクストレイルを走らせてみよう。

少し高めのシートに座りシートやステアリング、ミラー類を自分のポジションに合わせながら周囲を見渡すと、タンカラーの内装色は高級感あふれ、上質な印象が漂ってくる。センターコンソールにあるスタート・ストップボタンを押して準備は完了。バッテリー充電量が多ければ、エンジンは始動しない。そこからシフトレバーでDを選択し、軽くアクセルを踏み込めば自動的にサイドブレーキは解除され、しずしずとエクストレイルは走り始めた。

そこで少し残念な気持ちにもなった。とても上質感あふれる室内なのだが、シフトレバーの操作フィールが、非常にちゃちですごく安いプラスチックをガチャガチャと“いじっている”印象なのだ。目で見た印象とその質感のギャップが大きく、こういったところはもう一歩気遣いが欲しいと感じた。

気を取り直して街を走り始めるとe-POWERによる動力性能は非常にパワフルで、グイグイと加速するさまは驚くほど。まさにEVならではの力強い、トルク感あふれる走りといえる。また、アクセルペダルを踏み込めば瞬時に欲しいだけの力が手に入るので、ストレスのない走りが楽しめた。

日産エクストレイル、写真:内田俊一

一方、気になる点を挙げておくと、これは他のe-POWERもそうなのだが、エンジン始動中の音が少々ちゃちなのだ。また、停止中に発電のためにエンジンが始動することがあるのだが、その際に軽く振動を感じ、そこから停止するときも同様に振動が伴ってしまう。この辺りはエンジンマウントなどを補強するなどで対応を望んでおきたい。

街中を走行する際はeペダルステップを利用した。これはいわゆるワンペダルフィーリングと呼ばれるもので、積極的に強めの回生ブレーキを掛けることで強い減速力とそこから発生する熱量を電気に変え充電効果を生むものである。いわば強めのエンジンブレーキで、それが完全停止まで使えると思ってもらえればよいだろう。利用時はきちんとストップランプは点灯するのでご安心を。このストップランプを点灯させるためなのだろうが、強い回生が伴う際にはブレーキペダルが勝手に動くのには驚かされた。特に運転に影響はないのだが、ペダルがひょこひょこと動くさまはあまり気持ちのいいものではない。ただ、アウディをはじめいくつかのメーカーでも同様の動作が見られることは付け加えておく。

交差点での右左折やレーンチェンジなどの際、視界が悪いクルマは気を遣うもの。その点エクストレイルは車幅もつかみやすく乗りやすい印象だ。さらに、ドアミラーがドアにマウントされており、Aピラーとドアミラーの間に隙間ができていることは秀逸だ。ピラー付近に直付けされたドアミラーの場合は右左折時に死角ができてしまい、歩行者等が隠れてしまうことが多いのだ。また右後方も車線変更時や後退時には見やすかった。

すべては自然でそれが大事

日産エクストレイル、写真:内田俊一

では高速でのマナーはどうか。料金所からアクセルを一気に開けていくと、それに呼応するかのようにエンジン回転もスムーズに上がっていき、タイヤをエンジンが駆動しているかのような錯覚をしてしまいそうになる。当然回転が上がれば力も出て来るという違和感のないもの。
この辺りのセッティングはこれまでのe-POWERの技術にさらに磨きを掛けたものといえる。

また、概要でも述べた静粛性に関しては、特に高速では顕著に感じられる。もちろんただ静かということではなく、路面が変わったらそれなりに変化をドライバーに伝えて来るので、安心感も伴っている。

そして何より今回の長距離移動で驚いたのはシートの出来の良さだった。東京から鈴鹿まで1度トイレ休憩を挟んだだけで走り切れるだけの実力を持っているシートは、日本車ではなかなかお目に掛れない。特に包み込まれるようだとか、サポート云々という特別なことはなく、極めて普通の掛け心地なのだが、体重の受け方の配分や座面の調整角度などの勘所を上手くおさえたものなのだ。

高速での移動時は積極的にプロパイロットを利用した。これは自動運転ではなく運転支援システムで、常にドライバーは非常時や異常時では対応しなければならず、ステアリングを握っている必要がある。そうではあるが、前走車に追いついたときに減速してくれたり、そのクルマがいなくなったら設定した速度まで回復してくれたりするのは、疲労軽減に大きく貢献してくれる。さらに、車線等をカメラで読んでいるので、車線内をトレースして走ってくれる。こういったことはプロパイロットに限らず現在販売しているクルマの多くに搭載されている安全運転支援システムと同様の機能だ。

そういったものと比較しプロパイロットは、前走車に絡んだ減速のスムーズさは比較的良い点を与えられる。その基準は自然かどうかだ。例えば前走車に追いつくとかなり強めのブレーキを掛けたり、いなくなったら設定速度まで一気に加速したりするクルマが多い中、エクストレイルのプロパイロットは穏やかに減速してくれる。ただ加速時は比較的勢いがよく、すぐに先行車に追いつき再び減速ということになりがちだった。こういったシーンではもう少し塩梅良く出来ないかと感じたものだ。

また、高速の緩やかなコーナーなどではどちらかというと綺麗に回るというのではなく、多角的な動きを見せることが多かった。もう少し具体的に述べると、ステアリングを小刻みに切ったり戻したりするのだ。また、車線内では若干左寄りを走りたがるので、追い越し車線を走らせていて走行車線に大型トラックなどがいると、ドライバーがステアリングを操作をして中央に寄せたくなったほか、車線内で多少蛇行傾向にあったことを付け加えておこう。

一方、高速の渋滞時はプロパイロットならではの良さが実感できた。のろのろと進んでは止まる尺取虫状態で、プロパイロットは停止時から、先行車が動いた際の再スタートする際、場合よっては30秒以上での再スタートも可能だった。そうでない場合でも、アクセルペダルをチョンと踏むか、あるいはステアリングスイッチのRES+スイッチを押すと先行車の追従をスムーズに開始する。

さて、高速では比較的強い雨にも遭遇した。その際、e-4ORCEはとても安心感が高く、しっかりと四輪が大地を捉えている印象があったが、e-4ORSEの最大のメリットはその作動の自然さだ。
高速でのコーナーでさらっと旋回したり、車線変更時も安定感を持ってできるなど、ドライバーの思惑とは違う動きやどこかにギクシャクした動きやが伴わないので、e-4ORSE自体が備わっていることなどすぐに忘れてしまう。

こういった技術は実はそういうことが大事なのだ。これ見よがしに作動しています!という主張はいらないのである。

もう少し伸びて欲しい燃費

最後に燃費について触れておこう。

今回1160km走らせた結果、

  • 市街地:12.7km/l(16.1km/l)
  • 郊外路:15.4km/l(20.5km/l)
  • 高速道路:14.1km/l(18.3km/l)

( )内はカタログ記載のWLTCモード燃費
という結果だった。数値は車載計によるもので、繰り返すが今回は、広報車の都合上スタッドレスタイヤでの計測となったことをお断りしておく。

さて、この数字を見て気づくのは高速路よりも郊外路の方が燃費が良いことだ。この理由はやはり高速でパワーが必要になるシーンが多いことから、エンジン作動時間が長くなることでの悪化が要因と思われる。この傾向はEV全般にもいえることで、アクセルを戻す、ブレーキを踏むといった際の回生時間が短くなるため、どうしても電費悪化につながるのだ。

この数字だけを見ると決して省燃費であるとはいえないが、実は前述したように走行抵抗の大きいスタッドレスタイヤ装着も悪化の原因といえる。経験則では約10%悪化する傾向にあるので、サマータイヤであればWLTCモード燃費との差はもう少しは縮まるだろう。ただ、せめて高速ではもうひと頑張りして欲しい。疲れの少ないシートなどが備わり、より長い距離を走らせる実力が伴っているのだから、燃料給油のために停止する時間が惜しいのだ。

日産エクストレイル、写真:内田俊一

さて、今回長距離を共にした日産エクストレイルだが、その上質さは想像以上だった。

これまであった道具感は影を潜めた分、ゆったりとしたくつろぎや穏やかな雰囲気が漂う室内空間、そして、快適なシートによる長距離移動の疲れの少なさは目を見張るものがある。実はSUVにとってここは重要なポイントだ。
なぜなら遊びに行った先に着くまでに疲れてしまっては元も子もないからだ。

さらに、帰りはきっと遊び疲れていることだろうから、より疲労軽減は重要になる。
今後もし望むとすれば、室内の雰囲気にあった触感の向上だ。そのちぐはぐさがせっかくのドライバーの“良いクルマに乗っているな”という気持ちに水を差してしまっているからである。

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この記事を書いた人

モータージャーナリスト/日本ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

内田 俊一うちだ しゅんいち

1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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