ジャーナリスト寄稿記事

モータージャーナリスト/日本ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

内田 俊一うちだ しゅんいち

【18台限定】ベントレー バトゥールの内装・外装を解説[MJ]

世界で18台しかないベントレーバトゥールが日本でお披露目された。
コーンズモータースが運営するベントレー東京芝ショールームオープンのために急遽日本に運ばれたのだ。

〇文・写真:内田俊一 写真:ベントレー

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老舗ベントレーディーラーのショールームオープンのために

ベントレーショールーム

まずはコーンズモータースからお話を始めよう。
親会社であるコーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドは、1861年(文久元年)4月1日創業の総合商社で、クルマだけでなく、保険やエレクトロニクス・産業機械、海図、アパレルなど幅広く事業を展開している。

その中でもクルマは、1961年からロールスロイスとベントレーを、1976年からはフェラーリを取り扱っている。

当時は正規輸入代理店であったが、現在はそれぞれに日本法人ができたため、各ブランドの販売店として運営しており、その業績は本国もその存在を重視する実力を誇っている。

さらに近年ではそれ以外のスーパーカーメーカーなどの販売も行っている。

ベントレーショールーム

ベントレーに関しては、東京に2店舗、大阪、神戸に4つのショールームを展開。同時に東京と大阪に2つのサービス工場も運営。
特に東京地区でのベントレービジネスのシェアは約半分近くを占め、日本を代表するディーラーといえるのだ。

ベントレーショールーム

そのコーンズモータースの親会社であるコーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドが新社屋が完成し、その中に東日本最大級の広さを誇るショールーム、ベントレー東京芝ショールームがオープン。

ベントレーショールーム

そこで、ベントレー本社、そしてベントレーモーターズジャパンとして、まだ日本ではお披露目されていないバトゥールを特別に展示したというわけだ。

ベントレーショールーム

マリナーというコーチビルダー

ベントレーバトゥール

このバトゥールは、ベントレーのビスポーク&コーチビルド部門のマリナーが18台限定で製作するクルマだ。

このマリナーとは、もともと馬車などを製造していたコーチビルダー(イタリア語ではカロッツェリア)だったH.J.マリナーのことを指す。

1897年に設立され、のちに自動車のボディを手掛けるようになる。
特に1930年代のロールスロイスやベントレーなどはH.J.マリナー製ボディが多く採用されていた。

この当時、自動車メーカーはシャシーのみを販売し、顧客は好みのコーチビルダーにボディを特別注文することが多く、特にベントレーとマリナーの関係は非常に強いものがあった。

そして1959年、マリナーはベントレーの1つの事業部門となり、現在に至るのである。

ベントレーバトゥール

さて、このバトゥールのプロジェクトはバカラルに次ぐものである。

バカラルとは、2シーターオープンモデルで、マリナーがコーチビルドの原点に立ち返って製作した最初のモデルであり、お客様の注文を受け、手作業によって12台が製作された。

ベントレーバカラル

実はマリナーは新たな体制へと移行し、この原点に立ち返るとのいうのがキーワードなのだ。

新部門は「クラシック」、「コレクション」、「コーチビルド」の三つの柱からなり、クラシックは、戦前のレーシングカーの復刻モデルなどを手掛け、コレクションは、ベントレーのラインナップからラグジュアリー性をさらに高めた派生モデルを製作。

最後のコーチビルドがバカラルやバトゥールのようないわゆるフューオフ、特別なクルマを僅かな台数だけ製作するというものだ。

ベントレーショールーム

近年、ユーザーから特別な注文を受けることが多くなったことから、ベントレーの収益の柱にもなりつつあるというマリナー。

そこで、より力を入れるために、この3つの柱をもとにより強固なビジネスモデルを形成していこうというのだ。

将来のベントレーを暗示するデザイン

ベントレーバカラル

バカラルがメキシコのバカラル湖にちなんで名付けられたのと同じく、バトゥールも美しい湖の名に由来している。

バトゥール湖はインドネシア、バリ島のキンタマーニ高原にある水深88m、面積約16平方キロメートルのクレーター湖で、その豊富な水量は地元の温泉や農業用水の水源となっている。

ベントレーバトゥール

このバトゥールは18台すべてが受注済みであり、各オーナーとマリナー所属デザインチームとともに各車の仕様が決定されるので、カラーや仕上げなどを含めたエクステリアとインテリアの目に見える部分のほぼすべてがカスタマイズされる。

仕様決定後は、イギリスはクルー本社のカーボンニュートラル工場内にあるマリナーワークショップにて手作業での製作がスタート。
完成には数ヶ月を要し、2023年半ばに最初の一台が納車される予定となっている。

バトゥールのエクステリアデザインのモチーフには、ベントレーが2025年に発表が予定されている電気自動車(BEV)や、それに続くラインナップのDNAが含まれているという。

特に明確なのはフロント周りのようだ。

グリルを挟むように大型のヘッドライトを左右に1灯ずつ配しているが、この辺りは共通性があるといわれている。

ベントレーバトゥール

一方で、これまでのベントレーと同様、ロングノーズとショートデッキというエレガントなスタイルは今後も踏襲され、また、やたらとプレスラインを採用せず、曲面を活かすシンプルなデザイン構成とすることで、光と影、そして逞しさを感じさせるものとされた。

ベントレーバトゥール

インテリアに目を移すと、インストルメントパネル、フェイシア(助手席前の部分)、ドアの各ウッドパネルはグロスブラック塗装だ。

フェイシアに施された独特のレーザーエッチングはW12エンジンの音波、つまり、サウンドを芸術的に表現したものとのことだ。

ベントレーバトゥール

また、インテリアの金属パーツには、ブラックアルマイト仕上げのアルミニウムやサテン仕上げのチタンが用いられ、ベントレーダイナミックドライブセレクター(シフトレバー)には18金を使用。

ベントレーバトゥール

ステアリングホイールの12時の位置にはセンターバンドが取り付けられる。ただし、これらは全てカスタマイズ可能なので、クルマによって異なることを付け加えておく。

ベントレーバトゥール

ベントレー史上最強のW12気筒エンジン

さて、バトゥールは6.0リッターW12ツインターボエンジンを搭載し、740PS超を発揮するベントレー史上最強のクルマだ。

ハンドメイドされるこのエンジンは、2003年にコンチネンタルGTに搭載。
このW12エンジンはその後、何度かの改良を経て、今や世界で最も先進的な12気筒エンジンとして知られている。

ベントレーバトゥール

今回なぜバトゥールにこのエンジンが搭載されたのか。
それはベントレーが“ビヨンド100”戦略に沿って完全電動化へと大きく舵を切っているため、このW12エンジンは終焉を迎えつつある。

そこでその幕引きを演出する意味が込められているのだ。

バトゥールのW12エンジンは、新設計の吸気システム、アップグレードされたターボチャージャー、新設計のインタークーラー、キャリブレーションの徹底的な見直しによって最高出力740PS超、最大トルク1,000Nmを発生。

ベントレーバトゥール

この20年間で出力は約40%、燃費は25%向上した。8速DCTが組み合わされ、エキゾーストシステム全体はチタン製だが、フィニッシャーはベントレー初となるチタンの3Dプリンターでの造形品となる。

ベントレーバトゥール

このハイパフォーマンスを受け止める足回りは、アダプティブ3チャンバーエアスプリングを採用。

ベントレーバトゥール

各エアスプリングに切り替え可能な3つのチャンバーがあり、それぞれを介することでエアスプリングの空気量と硬さが変化する。

さらにドライバーは乗り心地とボディコントロールのバランスを4種類のモードから選択でき、センターコンソールにあるドライブダイナミクスコントロールを操作し、「スポーツ」、「ベントレー」、「コンフォート」、「カスタム」の各モードに切り替えられる。

このようにエンジンパワーだけでなく、乗り心地も重視され、それ以外にも止まるためのブレーキシステムもしっかりと強化されているので、まさに史上最強のベントレーといっても過言ではない仕上がりといえる。

ベントレーバトゥール

たった18台しかないバトゥールをもう目にすることはできないかもしれない。

しかし、ベントレーやマリナーが手掛けるクルマ達は今後も目に触れることがあるだろう。
その1台1台がベントレーの職人たちが魂を込めて作り上げた逸品なのである。

クルマという工業製品ながら、実はものすごく作り手の思いが込められ、工芸品のようなものともいっていい。

ぜひ見る機会、そして乗る機会があったなら、そしてオーナーとなったその日にはそういったことを思い起こしてもらえると嬉しく思う。

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この記事を書いた人

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内田 俊一うちだ しゅんいち

1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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