ジャーナリスト寄稿記事

モータージャーナリスト/日本ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

内田 俊一うちだ しゅんいち

フェアレディZ に乗って感じた、古典的スポーツカーの愉しさ[MJ]

〇文・写真:内田俊一 写真:日産自動車

現行フェアレディZがデビューしたのは2022年8月なので1年が経過した。

生産の都合上、まだ日本市場にはあまり届いていないのが現状だが、そんなさなか2024年モデルが登場。

日産フェアレディZNISMO

その内容はNISMOを追加するほかは現行の仕様変更で、全グレードにAmazon Alexaを標準搭載するとともに、S30型「フェアレディZ 432」のボディカラーとして設定していた「グランプリオレンジ」を想起させる「432オレンジ」を新たに設定。

日産フェアレディZ34

また、Version T/STグレードにブルーの特別内装色を追加設定したものだ。

日産フェアレディZ34

実際に走りに関しての変更はないとのことなので、ここで改めて現行フェアレディZを振り返るとともにMTとATの試乗記をお届けしたい。

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Z34

日産フェアレディZ34

まず初めに記しておかなければいけないのは、現行フェアレディZの型式は“Z34”というものだ。

2022年8月以前に売られていたフェアレディZの型式も同じZ34である。
つまり現行フェアレディZは2022年8月にマイナーチェンジしたいわば後期型ということができる。

フルモデルチェンジではないこともあり基本的な設計年次が古く、また、安全運転支援システムも最新のものは搭載されていない。

日産フェアレディZ34

そこで日産に問い合わせたところ、全体で80%の部品が新開発であり、パワートレインだけでなくデザインも一新しているので規模としてはフルモデルチェンジ並とのことだったので、できる範囲内でリニューアルさせたということだった。

さて、搭載されるエンジンは3リッターV6ツインターボで、最高出力は405PS、最大トルクは475Nmを発生。前期型よりも出力を大幅に向上させている。

日産フェアレディZ34

また、トランスミッションも6速マニュアルは、クラッチディスクとギアトレインを強化。
また、新設計のシンクロナイザーシステムの採用やシフトプロファイルの変更により、ドライバーの意のままのスムーズなシフトチェンジが可能とされた。

日産フェアレディZ34

そして新開発の9速オートマチックは、幅広いギアレンジによりダイレクトで素早いレスポンスを実現。
また、ドライブモードは、普段使いや高速道路でのロングドライブに最適なSTANDARDモードと、ワインディングロードなどでアグレッシブな走行を楽しみたいときに走りのポテンシャルを追求するSPORTモードから選択できる。

このSPORTモードは、エンジン、トランスミッションのレスポンスを高め、ステアリング反力やVDC制御(ビークルダイナミクスコントロール:走行中の横滑り状態をセンサーで判別し、走行時の車両安定性を向上させる機能)を最適化しているという。

ボディそのものも、「フェアレディZ」らしい走りであるシャープな回頭性を実現するため、フロントボディ周辺とリヤクロスメンバーを重点的に強化し、十分なねじり剛性を確保。

日産フェアレディZ34

さらに、直進性を高め、修正舵を低減するフロントハイキャスターサスペンションと、路面との接地性が向上する高応答モノチューブダンパー、また新開発のタイヤも採用している。

日産フェアレディZ34

さらに、バックドアとその周辺の剛性を高めることで振動音を低減し、走行時の快適性を向上させている。

そして注目はエクステリアデザインだ。
まさに伝統的な後輪駆動のスポーツカーデザインを踏襲し、ロングノーズ・ショートデッキなど、初代「フェアレディZ(S30型)」をはじめとする歴代「フェアレディZ」へのオマージュを込めたシルエットに仕上げられている。

日産フェアレディ

また、LEDヘッドランプのデザインは、初代「フェアレディZ(S30型)」を彷彿とさせる2つの半円をイメージ。

リヤコンビネーションランプは、Z32型を連想させるデザインに最先端の技術を取り入れ、新たに3DシグネチャーLEDを採用し、「フェアレディZ」らしさを表現したものだ。

日産フェアレディZ34

市街地でも男っぽい乗り味

日産フェアレディZ34

横浜でフェアレディZ Version STの6速MT車を受け取り、早速街に出てみよう。

シートは一部電動式でドライバーズシートの左側に操作ボタンがある。
それで最適なドライビングポジションを設定し、ステアリングやミラー位置を調整。

日産フェアレディZ34

少し重めのクラッチをいっぱいに踏み込んでエンジンをスタートさせると、一瞬の身震いの後、3リッターV6ツインターボは目覚めた。その後は静かにアイドリングを続けていた。

日産フェアレディZ34

そこから固めのシフトで左奥の1速を選び、ブレーキペダルを踏んで手動式のサイドブレーキを解除。

アクセルペダルは踏まずにゆっくりとクラッチペダルを戻していくと、僅かにクルマが動き出す。

そこから少しずつアクセルペダルを踏み込みながらクラッチペダルを戻していくと、スムーズに、かつ、力強くフェアレディZは横浜の街に滑り込んだ。

日産フェアレディZ34

その第一印象は、やはり古典的なスポーツカーということだ。

例えばマツダロードスターやGR86などといった軽量スポーツカーではなく、重量感があり、かつ、ある程度の塊を走らせている実感がひしひしと伝わってくる。

それはひとつひとつの操作が重いことも影響している。
例えばシフトチェンジもしっかりと力を入れて少し強引にシフトアップ、ダウンをしなければいけないこともそうだ。

日産フェアレディZ34

個人的にはこの辺りはもう少し軽くかっちりとしたフィールを好むのだが、フェアレディZの性格を考えると、少し強引にたたき込むようなイメージの方があっているのかもしれない。シフトストロークは短いこともあり、ミスシフトは起こらないだろう。

日産フェアレディZ34

マニュアルシフトのクルマに乗ると、エンジン回転を合わせてシフトダウンも楽しみたくなる。
実はフェアレディZにはスイッチを入れておくとシフトダウン時にクルマ側でエンジン回転を合わせてスムーズにシフトダウンしやすくする機構もついているので、慣れない人でも簡単にシフトチェンジを楽しめるし、慣れた人であればこのスイッチを切ってしまえば、自分で回転数を合わせてシフトチェンジができるので、どのような人が乗っても困ることはない。

日産フェアレディZ34

付け加えると、マニュアルシフトで最も困る坂道発進もヒルスタートアシストがついているので、クラッチミートする瞬間までクルマ側でブレーキをかけ続けてくれるので安心だ。

もし可能であれば、マツダロードスターのように発進時に、クラッチを踏んでシフトを1速に入れた時からほんのわずかにエンジン回転を上げてくれる機構がついているとありがたい。
そうすればよりスムーズな発進が可能になるだろうし、クラッチもいたわることができる。

実はこのフェアレディZ、ごく低回転域のトルクが薄い印象があるので、慣れないとクラッチだけでのスタートは気を遣うのである。

ブレーキは最初の1回目から2回目くらいまではオーバーサーボ気味でカツンと効きがちだが、それも3回目を過ぎてしまえばある程度温度が上がるためか不自然さは消えていた。

インテリアはセンタークラスター上部の3連メーターやダイヤル式の空調のコントロール類など古典的なレイアウトだ。

日産フェアレディZ34

これらは決して新しさはないものの、クルマの印象に対して違和感のないものといえ、その操作類もタッチパネルのようにいちいち視線移動しなくても、レイアウトさえ覚えてしまえばそこに視線を彷徨わせることなく操作が可能であった。

シートも適度なホールド感を持っており、長時間座っていてもむやみな疲労は感じないものといえ、日本車としては良質な部類にあるといえる。

日産フェアレディZ34

少し退屈な高速道路

続いて高速道路に乗ってみよう。

料金所から一気に加速すると、レッドゾーンまでよどみなく回転数を上げていく。高回転域ではなかなか良い音もするので、ちょっと回転を上げ気味に走らせるのも楽しい。

一方で、6速まで適宜アップしてしまえば、100km/h程度の走行では安楽以外の何物でもない。なのでついついシフトダウンして回転を上げて加速を楽しんでしまいがちだった。

また、2000回転を超えるか超えないかあたりからターボが効き始めるので、その加速感も心地の良いものだ。

一般道だけでなく高速においてもスポーツカーとしての乗り心地は良い方だ。

日産フェアレディZ34

確かに硬めではあるのだが、路面の不整などによる突き上げ感は抑え気味だし、なによりもフロント255/40R19、リア275/35R19という太いタイヤを履いているにもかかわらず、路面の追従性はよく、路面が多少荒れていてもハンドルを取られることはなかった。

ただし、後述するがATの場合はタイヤが減っていることもあり、ちょろちょろとステアリングを取られるシーンがあったので、タイヤの依存度は少し高そうに感じた。

直進安定性はそれほど高くなく若干修正舵は必要だ。

高速で最も気になるのはロードノイズで、特にリア周りからの音の侵入はかなり大きいことを付け加えておこう。

ワインディングは得意中の得意

日産フェアレディZ34

さあ、高速道路を降りてワインディングロードに入ってみよう。

そのシーンでフェアレディZはまさに水を得た魚のように、生き生きとコーナーを駆け巡る。
ステアリングの切り角も思い通りで自信を持ってひとつひとつのコーナーをクリアしていく。特に中速域のコーナーで、若干ブレーキを残してフロントに荷重をかけた後、ゆっくりとアクセルを踏みながら、コーナーを脱出するようなシーンでは、しっかりと後輪は路面を捉え、パワーを路面に伝えながら加速していく様は快感ですらあり、まさに低重心のスポーツカーを操っているという実感がわいてくる。

日産フェアレディZ34

ATでも同じだが・・・・

基本的にATも同じ印象だと思っていい。

日産フェアレディZ34

ただ、今回借り出したVersion STのAT車は相当粗く扱われていたようで、ボディはもとよりシートもへたり気味で決してコンディションが良い状態ではなかった。
また、タイヤも終わっており、一度返却して別のタイヤ(新品ではない)に交換してもらったが、それでもあまり差がなかったので、クルマ全体のやれが相当進んでいたのだろう。

従ってあくまでもMTを正常な状態としたうえでATを評価してみたい。

まずMTでは気にならなかったアクセルレスポンスを挙げなければならない。

信号からスタートする際、アクセルペダルを踏んだ量に対して、パワーが大きく出てしまうので、グイッと思った以上に加速をしてしまう。
そのアクセルペダルの踏み加減がすごく微妙で、まるでスイッチのオンオフのように僅かに踏み込むとドンと出てしまうのだ。実は高速でのACC(アダプティブクルーズコントロール)使用時に、設定速度よりも少し低い速度で前走車に追従していて、前車が少し加速をすると、こちらはそれ以上の加速になりそこからブレーキを踏んで速度を調整するというギクシャクした動きが伴った。

これはどうやらこのアクセル開度の調整が上手くいっていないことと同じ症状だと思われる。

日産フェアレディZ34

もう少し穏やかなセッティングを望んでおきたい。
因みにMTで感じられなかったのは相応のチューニングがなされているだろうことと、ドライバーがクラッチワークなどとともにコントロールする領域が大きいからと思われる。

もうひとつ、これはぜひ改良してもらいたいことがある。それはシフトレバーだ。

日産フェアレディZ34

まるでEVかと思わせるようなレバーは本当に興ざめだ。
なぜこのタイプを採用したのか理解できないし、シートに座って少し古臭く感じてしまうようなメーター類や、センタークラスター上部には3連メーターが備わっているのにも関わらず、センターコンソールにあるこのシフトレバーだけ、妙に新しさを主張する違和感は最後までぬぐえなかった。

日産フェアレディZ34

シフトタイミングやパドルシフトでのアップダウンは若干ショックを伴うものの、ダイレクト感のあるもので、スポーティな走りに影響は感じられなかった。

妥当な燃費性能

今回MT、ATとも500kmほど乗ることができたので、燃費も計測してみた。

MT

  • 市街地計6.3km/l(6.4km/l)
  • 郊外計7.2km/l(9.9km/l)
  • 高速計13.3km/l(11.6km/l)

AT

  • 市街地計6.7km/l(6.6km/l)
  • 郊外計9.4km/l(10.9km/l)
  • 高速計15.4km/l(12.6km/l)

()内はWLTCモード燃費

日産フェアレディZ34

V型6気筒ツインターボエンジンで、かつ、それほど燃費重視なセッティングをしていないことを考えると、妥当な数値といえる。

ここで注目したいのはMTよりもATの燃費がいいことだ。つまり、フェアレディZに搭載されているATは非常に効率よくエンジン回転域を使い、かつ、ロスなく駆動輪に動力を伝達していることがよくわかる結果といえる。

それにしても、高速域はMTもATも実際に走らせた燃費がWLTCモード燃費よりも良いので、このクルマのWLTCモード燃費の数値はかなり信用できるといえよう。因みに指定ガソリンはハイオクである。

日産フェアレディZ34

今回それぞれ1週間プラス程度、実際に走らせてみて一番驚いたのはとにかく周囲の視線を感じることだった。

それは中高年だけでなく、若い人たちの視線も熱かったのが印象的だった。
また、ライダーも追い抜き時や信号停車時などまじまじと見つめられることも多々あった。海外のスーパースポーツカーなどに乗っても、ここまで視線を集めることは珍しい。

それだけ市場の興味をひいていることを如実に感じられるクルマであった。

日産フェアレディZ34

そのデザインはとても簡潔にまとめられており、その中に過去のフェアレディZのモチーフを上手くかつ違和感なく取り入れられていることにも好感が持てる。

また、フェアレディZは冒頭にも記したとおり、あまり電子デバイスなどを使っていないため、そういった介入なしにドライビングに集中できるというメリットもある。

さらに、アイドルストップやハイブリッド機構などでもないので、まるでクルマと人がダイレクトに繋がっているようにも感じさせてくれた。まさに古典的な走らせる愉しみを与えてくれるのがフェアレディZといえる。

確かに日本においては台数を稼げるクルマではないだろう。

しかし、ぜひ販売は継続してほしい。これこそが日産の宝であり、クルマ好きを魅了するクルマでもあるからだ。

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この記事を書いた人

モータージャーナリスト/日本ジャーナリスト協会(AJAJ)会員

内田 俊一うちだ しゅんいち

1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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