ジャパンモビリティショー2023 マツダだからこそ出来た新たなスポーツカー アイコニックSP登場[MJ]
マツダは東京ビッグサイトで11月5日まで開催してるジャパンモビリティショー2023に出展。
そのテーマは「『クルマが好き』が、つくる未来」だ。
〇文・写真:内田俊一 写真:中野英幸・内田千鶴子
INDEX
マツダのブースにひときわ輝く1台
マツダのCIに統一されたそのブースに広がっているのは、マツダロードスターを中心とした遊び心溢れるもの。
初代ロードスターはミニカーのパッケージを模したショーケースに入っているし、壁一面にミニカーが飾られ、見ている大人たちは童心に帰る思いだ。
さらに、精巧に作られた現行ロードスターの縮小モデルなどを展示。
そして、そのメインは美しい赤に塗られたマツダアイコニックSPというコンセプトモデルだ。
その低いフロントの高さから十分に想像できるように2ローターエンジンを発電用として搭載。
軽量・コンパクトなロータリーエンジンをクルマの室内側に寄せて(つまりはフロントミッドシップ)搭載しているという。
そもそもロータリーエンジンは、水素など様々な燃料を燃やせる拡張性の高いもので、カーボンニュートラル燃料で発電する。
搭載バッテリーは、再生可能エネルギー由来の電力で充電されると、実質カーボンニュートラルでの走行が可能となるものだ。
この2ローターロータリーEVシステムが発生する高出力と、更に低重心なプロポーション、50:50前後重量配分により、優れた運動性能を実現。
また、スポーツカーでありながら、屋外のレジャーを楽しむとき、また災害時の電力供給が可能となる。
外板色「VIOLA RED」は、“赤を大切にしたい”というマツダの想いをもとに、“前向きに今日を生きる人の輪を広げる”というマツダの企業理念を重ね合わせて創ったコンセプトカラーだという。
鮮やかな発色を追求すると同時に、造形を際立てさせる陰影感を生み出すことを目指し開発された。
このモデルの主要諸元を記しておくと、全長4,180mm、全幅1,850mm、全高1,150mm、ホイールベースは2,590mm、最高出力は370psで車両重量は1,450kgと発表された。
ただし、今回の発表ではこのロータリーエンジンは前述の通り発電用ということだけであり、実際に発電のみに使用されるシリーズハイブリッドなのか、駆動もするパラレルハイブリッドなのかの明言はされなかった。
どうやら、そのあたりは想像にお任せするというスタンスのようだし、もちろんまだ市販化などは予定されていないが、それでもここまで緻密な数値を発表していているからには、何か思惑があるに違いない。
そこで、マツダデザイン部本部長の中山雅さんに話を聞いてみながら解説したい。
デザイナーのクリエイティビティ向上のために
始めに中山さんはネーミングの意味を教えてくれた。
「マツダのアイコニックなSPという意味です。SPはスポーツでもあるしスピリットでもあるんですね。ですからマツダのスポーツアイコンとか、スピリットアイコンがこのモデルです」とのこと。
また、このモデルの位置づけは中山さんが考えるマツダのデザイン、そこから挑戦に繋がる提案モデルでもあるという。
中山さんは2021年2月にデザイン本部長に就任。そのときに考えていたことは、デザイナーはクリエイティブな仕事をする人たち。
だから、「こういう線をひけとか規定してはいけない。そうするとデザイナーたちのクリエイティビティを阻害してしまい、良いデザインはできないのでは」ということだった。
そうはいっても方向性を示さなければ単に発散したデザインで、とりとめもないものになってしまいかねない。
そこで中山さんは、何か端的に示すものが必要だと考え、「クルマをデザインするときに込める気持ちや、リスペクトしなければならないエンジニアの考えを示すための教科書みたいなイメージでアイコニックSPを作りました」と話す。
「私はこういう風に考えるのがデザインだと思っているという中山デザイン哲学を表現したみたいなものです。
その中にはマツダは人馬一体の走りを重要視しているので、デザイナーもその走りをちゃんとイメージしてデザインしないとダメだとか、50:50の重量配分を考えたクルマであれば、デザイナーもそれを理解した上でデザインをしなければいけない。
そういうデザインをマツダはしていきますよという位置づけです」とコメントした。
4.2mという全長と1.2mという全高の意味するところ
しかし、冒頭に書いた諸元のようにかなり明確な数字が並んでいる。
ここにも中山さんの意図が隠されている。まずは4.2mを切った全長にしたかったそうだ。
過去RX-7というスポーツカーは4.2m付近だった。
それができたのはロータリーエンジンという小さなパワーユニットがフロントミッドシップ(フロントの車軸よりもエンジンの中心が室内側に位置するレイアウト)にあって、かつ、リアシートに人が座って足を抱えるようにでもいいので座らせて、そこにタイヤを配置してパッケージすることで4.2mに収めていた。
そこで今回は2シーターにして、しかし近年はタイヤの直径は大きくなっているのでそれを加味すると4.2m付近になると中山さんは考えた。
そして全高を決めるのは前方を見た時の下方視界(低い位置がどこまで見えるか)なので、フロントに大きなエンジンが搭載されるとボンネットが高くなり下方視界が損なわれるので、それを避けるためにドライバーの着座位置を高くしなければいけない。
そうすると必然的に全高が高くなってしまうのだ。これを回避するための最適解は、スーパーカーのようにリアミッドシップレイアウトであれば全高1200mmを切ることができる。
比較的小さい4気筒エンジンを搭載しているマツダロードスターでも1235mmという全高なので、フロントエンジンである以上は1200mmを切ることは不可能なのだ。
しかし、アイコニックSPはフロントにパワーユニットがあるにもかかわらず、1200mmを切る全高を達成した。その理由は2ローターのロータリーエンジンを搭載したからだ。
つまり、マツダしかできないデザインなのだ。
マツダでしかできないデザインのために
中山さんは、「初代RX-7は、デザインドbyロータリーといっていて、このデザインはすごいと思います。ですからそれを現在の力でマツダでしか絶対にできないデザインにすれば、エンジニアだって実現したいと思ってくれるのではないでしょうか。
全員が夢を追えるような気がするんです。ですから、ひとつの方向に向けるための北極星がアイコニックSPの役割でもあるんです」と語る。
そうすることで、「設計者はあのデザインの中に収めるようにレイアウトしなければいけませんし、その状態で衝突安全もクリアしなければいけない。工場の人たちもこのボディどうやって鉄板でプレスするんだろうと挑戦してもらいたい」。
それは今回のカラー、VIOLA REDにも中山さんの思いが込められている。
このカラーを実現するためには、「白の上にクリヤーの赤を27回重ね塗りしているんです。
職人がクルマの周りをシューってしながら27周しているんですよ。何回目かでフーって休憩しながら。27回もやらなければいけない理由は、そうしないと均一な厚塗りができないからです。
でも一度で均一に厚塗りできる技術があればそんなことしなくてもいいじゃないですか。“人間が想像できるものは全て実現できる”という言葉がありますけど、これも実現できるんじゃないかな。
次のマツダの匠塗りのひとつの指標になると思います」という。
そして、実現困難であればあるほどエンジニアは燃えるという。
「会議上では、デザインがなんとかしろよこのぐらいってエンジニアはいうんです。でもそこには本当は信念を持った答えを彼ら求めていて、デザイナーが信念を持っているとわかるとやるんですよ。
でないと、出来上がったクルマを見てブッサイクなクルマを設計したとは思いたくないじゃないですか」とのこと。
従ってこのアイコニックSPも、「いい訳なしで信念を語れるように結構綿密にデザインをしたつもりです」とのことだった。
“D”で終わらせないために
実は中山さんはロードスターのチーフデザイナーでもあり、その世界では有名人だ。その中山さんがあえて屋根のあるスポーツカーを作ったのには何かわけがあるようにも思う。
「それはRX-XXは作らなければいけないと個人的には思っています」とのこと。
RX-7は1978年に型式SAでスタートし、FC、FDと進化。
2002年にFDの生産が終了するまでの24年間、ロータリーエンジンを搭載した唯一無二のスポーツカーをマツダは作り続けた。
その歴史はいったん幕を閉じたが、その復活を中山さんだけでなく、多くのロータリーファンも願っている。だからこそ先日発表されたMX-30REもレンジエクステンダーであれ、歓迎されているのだ。
こうした背景や考えのもとにアイコニックSPの開発はスタートした。
そのデザインのオーダーは先行開発、つまりアドバンスチームに出された。
そこで担当したのは現行ロードスターも手掛けたデザイン本部アドバンスデザインスタジオクリエイティブエキスパートの高橋耕介さんだ。
中山さんは、「彼に具体的なことではなく、こういうことをしたいといってもできるデザイナーです。ですから自分からはとにかく上から見てドラマチックなデザインにしてほしいと伝えました。ただ、サイドのプロポーションは自分が絵を描いて渡したんです」という。
実は中山さんはデザインの説明をするときに、自身でさらさらと絵を描くことが多い。
それを今回も同じようしたそうだ。
「iPhoneを上から吊るして、最初にランボルギーニカウンタックとミウラを描いて、続いてポルシェ911、ディノ、ランチアストラトスを描きました。
そして歴代のRX-7のSA、FC、FDを描いた後に、ここから今回のモデルを描きますといってその動画を撮影し、それをデザイナーに渡したのです。
こうすると、今回のモデルがなぜこうなるのか、これが原理原則必然のデザインだという理解をしてもらえるのです」
と説明してくれた。
因みにこれらは中山さんがリスペクトしている、愛してやまない、尊敬してやまないクルマ達なのだとか。
いま中山さんは上から見てドラマがあることを話した。
具体的には前後フェンダーが膨らみドア周りがくびれるグラマラスな造形だ。つまり乗員部分が一番狭くなる。
そうすると、サイドから見て前後方向に直線的なラインを入れることすら難しいので、「デザイナーは嫌がるし、ましてやマツダの魂動デザインの光は出しにくくなるのですごく苦労しましたし、抵抗にもあいました。
しかし、彼と彼の上司のアドバンスデザイン部長のサゼッションもあり最後は皆でまとめてくれて、綺麗なモデルが出来たのです」と語ってくれた。
さて最後に中山さんに聞いてみよう。これは生産化されますか?
中山さんは、「そういう気持ちになってもらうために、そしてそのように応援してもらって、最後に生産化が求められるという流れになってほしいんです。“N”も“F”も“D”で終わらせるわけにはいきませんからね」と想いを語っていた。
注)Nとはロードスターの型式の頭文字、FはRX-7の型式の頭文字。そしてDはロードスターの現行モデルNDを指し、RX-7の場合は最終モデルのFDを指す。
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