トヨタ 新型ランドクルーザー“250”と“70”を発表|現行モデル“300”との違いとは?[MJ]
トヨタはランドクルーザープラドのフルモデルチェンジを発表。
日本市場においてはこの新型からプラド名を外し、ランドクルーザーとして販売する。
250は他のラインナップ、300や70と区別するために用いられる。
今回は同時にランドクルーザー70も再導入し、ランドクルーザーは全3シリーズとなる。
250は2024年前半の発売を予定している。
〇文・写真:内田俊一 写真:トヨタ
INDEX
トヨタの歴史はランドクルーザーの歴史
世界170の国と地域で販売されているランドクルーザー。
その歴史はトヨタの歴史そのものというのは、同社取締役・執行役員 デザイン領域統括部長のサイモン・ハンフリーズ氏だ。
ランドクルーザーの歴史はいまから72年前にさかのぼる。
創業者である豊田喜一郎の時代であり、トヨタは、まだ創業して14年のいわば“スタートアップ”企業で、カローラやクラウンでさえ生まれていない時代。
日本以外で、トヨタの名前を知る人は、ほぼいなかった。
しかしこのランドクルーザーによってトヨタの名を世界に知らしめたのだ。
「過酷を極めるような状況、命を脅かすほどの極限の環境を人々とともにランドクルーザーは生き抜き、その信頼性、言い換えれば絆をより強く作り上げていった」という。
ランドクルーザーを語るとき、「クルマが道を切り拓く」というフレーズがある。
まさにランドクルーザーが道をつくり、その道が、それぞれの地域のかけがえのない暮らしを支えているのだ。
例えば、「アフリカの農村部で、氾濫する濁流を恐れず、医師が患者のもとへ駆けつける。オーストラリアの奥地で、高齢女性が往復2日かけて最寄りの町まで通う。マイナス45度、猛吹雪に襲われる南極で、観測隊が懸命に仕事に励む。事実、過酷を極める南極を初めて走破した四輪車も、ランドクルーザー40シリーズだった」とサイモン氏は語る。
それは日本でも同様だ。
サイモン氏によると、「1951年、警察予備隊の要請で、初代ランドクルーザー「トヨタBJ」の開発は始まった。結果的には競合に敗れ、採用には至らなかったものの史上初めて富士山の6合目(標高2,700m)に到達するという偉業を達成。その結果、国家警察のパトカーとして初めての任務を授かる。つまり“暮らしを守る”という使命が明確になったのだ」。
歴代ランドクルーザーが持つ使命とは、「どこへでも行き、生きて帰ってこられること」。
ランドクルーザーが壊れれば、不便になるだけでは済まされない。
人々の、かけがえのない命が脅威にさらされるのだ。
サイモン氏は、「ランドクルーザーの価値を一言で表すとしたら命を託せるという信頼」とコメント。そのBJの直系がランドクルーザー70に繋がっている。
ランドクルーザーのラインナップでフラッグシップは300だ。これは、「ブランドの“象徴”」
とサイモン氏は位置付ける。そして70との中間、「まさにランドクルーザーのど真ん中、ランドクルーザーの主力となる“コア・モデル”」が今回デビューした250なのだ。
原点回帰
この250を開発するにあたり豊田章男会長が開発グループに課した使命は、「原点回帰」だった。
「文字通りに解釈すれば、原点に立ち戻ること。彼は、あえて詳しく語らなかった。
どう解釈するかは、開発陣の腕の見せどころ。我々は即座に原点に立ち戻ることを考えた。
質実剛健な70を新たにつくるのか?レトロにすればいいのか?いや、それではあまりにも単純すぎる…」と悩みながら、サイモン氏をはじめとした開発陣は気付くことがあった。
それは、「(豊田会長は)開発陣にリセットボタンを押すチャンスを与えていたということ。トヨタのポートフォリオにおけるランドクルーザーの存在意義、そして真の価値を見つめ直すチャンスだった」。
その結果、「トレンドなんというものを遥かに超越し、世界中のお客様が、無条件の信頼を託せるクルマへと昇華させ、いまの時代にランドクルーザーの価値を体現するため、ゼロから再設計し、お客様に向き合い、無駄がなく、どこへでも行け、願いをかなえること」を基本姿勢として開発されたのがこの250なのである。
悪路走破性と扱いやすさをアップさせて
ここからはランドクルーザーシリーズのチーフエンジニアである森津圭太氏にポイントを解説してもらおう。
サイモン氏が述べたように、ランドクルーザーの原点開発、すなわちより多くの地域のお客様の生活や実用を支えるために、そしてランドクルーザー全体のど真ん中に戻すためには、何を実現すればいいのか考えていった。
そこでたどり着いた方向は、「まさに無駄を削ぎ落とし、質実剛健なオフローダーとして基本性能を追求すること。その上で扱いやすさを進化させていった」という。
特にこだわったのは大きく3つ。
1つ目はプラットフォーム(ベースとなる車台)だ。
「ランドクルーザーの哲学である、信頼性、耐久性、悪路走破性を継承、進化させた。お客様に、長く、安全に使っていただけるように、300系と同じGAFプラットフォームを採用し、悪路走破性を格段に向上させた」。
これは従来型比で大幅に剛性を強化。フレーム剛性を+50%アップさせるとともに、車両全体の剛性としては+30%向上。さらにサスペンションの基本性能も向上させ、悪路走破性の指標となるホイールアーティキュレーション(タイヤの浮きづらさ)も高めた。
またホイールベースは、「悪路走破性と居住性を両立する最適なランドクルーザーの黄金比ともいわれる2850mmとし、2列目、3列目のカップルディスタンス、さらに荷室を拡大」。
その上で扱いやすさでは、「各国の非常に厳しい衝突安全性の規制を満足させながら、従来型からフロントオーバーハングを短縮」。
これを実現させるために高剛性かつ軽量化を両立することができる非線形テーラードウェルドブランク(自動車ボディ部品の軽量化、高剛性化を図るために、板厚や材質の異なる鋼板をレーザー溶接にて1枚のパーツに接合する新溶接技術)を用いることで、フロント周りを刷新。
同じくリアについても、300系と比較し、テールエンドを前出しすることで、取り回し性を良くしている。
またタイヤの全幅(トレッド)は、「意匠性、性能の向上、スタンス感の向上のため外に張り出したが、ドアミラーの最外端の全幅、ドアミラー全幅は、現行以下として扱いやすさを確保した」と森津氏は述べる。
電動パワーステアリングを初採用
続いて動的性能では、フロントサスペンションはハイマウントのダブルウィッシュボーン式、リアは伝統のリジットアクスルに4リング式を採用することで、「オフロードでのタイヤの接地性を従来型より格段に高めている」という。
ブレーキは、ユニットを刷新、サイズを拡大するとともに、「サスペンションのジオメトリーを見直すことにより、制動時の姿勢を改善し、どんな状態でも安定的にブレーキングできるようにした」とのこと。
そして、ランドクルーザーブランド初の電動パワーステアリングを採用することで、「ユーザーの扱いやすさを向上。その上でトヨタ初となるSDMという技術を採用した」。
SDM(Stabilizer with Disconnection Mechanism トヨタブランド初採用)はスイッチ操作で、フロントスタビライザーの効果をオン・オフできるもので、オフロードの悪路走破性・乗り心地とオンロードでの操縦安定性を両立するものだ。
日本は2種類のパワートレインで
最後に動力性能だ。世界各国の厳しい規制やユーザーの要望に応えるために、「ランドクルーザーらしい力強い走りと環境性能を高い次元で両立した、ランドクルーザー初のハイブリッドシステムを導入(日本は未導入予定)」。
また、2.4リッターターボエンジンを今回新規開発するなど5つの組み合わせで新たに導入される。日本には1GD・FTVディーゼル2.8リッターターボと8ATが組み合わされたもの(最高出力204ps、最大トルク500Nm)と、2TR-FE2.7リッターガソリンに6AT(最大出力163ps、最大トルク246Nm)が組み合われた2種類が導入予定だ。
この1GDエンジンについて森津氏は、「従来の流用になるが、ターボチャージャーを新規開発し、内部構造の小型化、かつ高効率化によりエンジン出力は維持しながらも、アクセルを踏み込んだ時の高レスポンス化を実現。
新規導入の8ATと組み合わせることによりオフロードから高速走行まで全域で加速度のコントロールを実現することができ、ディーゼルとしてのパワフルな走り、そして扱いやすさ、さらに運転できる楽しさをお客様に提供できる」と仕上がりに自信を見せた。
何があっても帰って来られるようにデザイン
最後にサイズとデザインについて記しておきたい。
全長 4,925mm(+100) 全幅 1,980mm(+95) 全高 1,870mm(+20) ホイールベース 2,850mm(+60)という体躯を誇る250のデザインは、ランドクルーザーの伝統とモダンさを融合させたデザインといえる。
そうしながら、Reliable(過酷な使用用途にも耐えられる信頼性)、Timeless(永く愛せる飽きのこないシンプルさ)、Professional(プロが使う、無駄のない道具に共通する洗練された機能美)をキーワードに外装・内装をデザイン。
外装は水平基調のデザインによって再現されたランドクルーザーらしいシルエットとし、内装は高級・豪華な雰囲気からリアルオフローダーらしい機能性を感じさせるデザインへとシフト。
強さと安定感のある空間、水平基調のインストルメントパネルや、様々な環境で運転する時でも迷わず操作がしやすいスイッチ形状を採用するなど、悪路走行時も含めた機能性向上に貢献している。
フェンダーが張り出しているのはスタンスがよく見えるようにするためと同時に、運転席の窓から覗けばフロントやリアタイヤの位置の確認をしやすくするため。
同様に、ヘッドライトなどが内側に入っているのは、角をぶつけた時にウインカーは割れても帰ってくることができるが、ヘッドライトが割れてしまうと、帰ることが難しくなるからだ。
つまり、それほどの極限の環境で使われることを意識したデザインとなっている証左といえる。
なお、フロント周りに関してはヘリテージを感じさせる丸型ライトを用いたものと2種類が用意される。
70復活
250の発表に合わせ70も国内復活する。
この新型70はこのシリーズの特性を継承しながら、時代に合わせて進化したものだ。
力強い動力性能と低燃費を両立する2.8リッターディーゼルエンジンと6ATが組み合わされる。
従来のガソリンエンジンから、1GDディーゼル 2.8リッターターボエンジンへパワートレーンを一新。
高トルク・高出力を兼ね備えたディーゼルエンジンならではのタフなオフロード性能を確保しながら、低騒音・静粛性への配慮、また燃費性能の向上にも取り組まれた。
同時に耐久性に優れ信頼度の高いラダーフレームを継続して採用するなど、優れたオフロード走破性を維持しながら、さらにオンロードでの乗り心地も向上させた仕上がりとなっている。
今回お披露目された250はあくまでもプロトタイプで、かつ左ハンドル仕様であったことから来年日本で市販される際には細部が異なる可能性はある。
今回、プラドのサブネームを落とし、250、あるいは単にランドクルーザーとして呼ぶということは、“ランドクルーザー群”の中心的存在ということを大きくアピールすることが目的だ。
それだけの信頼性を持ち合わせ、過酷な条件下でも命を守り切り、無事に帰還できるというランドクルーザーの根幹をしっかりと継承したクルマということがこのネーミングからも伺い知れるだろう。