石油や原油の貨物船「タンカー」とは?タンカーの種類や経路も紹介
タンカーは、原油や燃料など私たちの生活になくてはならないものを海外から輸送する大型船です。
実はタンカーにも種類があることをご存知でしょうか。
種類によって輸送する貨物が決まっていて、船のサイズもそれぞれ違います。
この記事ではタンカーの概要や種類、輸送経路などについて解説します。
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タンカーとは
タンカーとは、液体貨物を輸送するため船体に大型の油槽(タンク)を設けた船のことです。
日本で最初のタンカーは1908年に大阪鉄工所櫻島製によって建造された「虎丸」で、総トン数531トン、油槽容量400トンでした。
輸送するものは原油をはじめ、ガソリンやナフサ(粗製ガソリン)、灯油や軽油などの石油製品、メタノールや硫酸などの液体化学品などさまざまです。
また、液化天然ガス(LNG)を輸送するLNGタンカーや、プロパンやブタンが主成分の液化石油ガス(LPG)を輸送するLPGタンカーなどもあります。
固体の貨物を輸送する船と違い、液体貨物が中心であるタンカーが座礁などの事故を起こしてしまった場合、積み荷である原油やガソリン、液体化学品が海に流れ出て広範囲にわたり環境汚染を引き起こし、海中の生物に甚大な被害を及ぼす可能性があります。
このような事態に備えるために積載重量600トン以上のタンカーでは、船体を二重船殻(ダブルハル)にして建造することが義務付けられており、液体貨物の海上への流出を防ぐ構造になっています。
また、油槽の内部には「復原性に対する自由水影響(船内の液体が低い方へと流れることにより復原性を失い転覆する可能性が増す)」を防ぐため、多数の隔壁により細かく仕切られています。
タンカーの種類
タンカーは輸送する貨物によって「原油タンカー」「プロダクトタンカー」「ケミカルタンカー」と呼び方が変わり、船体のサイズも貨物によって大きく異なります。それぞれを詳しく解説します。
原油タンカー
原油タンカーは、さまざまなエネルギーのもとになる原油を油田から製油所まで運ぶタンカーです。
原油は複数の場所で産油されているため、産油場所によって性状が異なります。
そのため、原油タンカーの油槽は複数区画に分割されており、数種類の原油を分けて積み込むことができるようになっています。
大型タンカーの原油の積み下ろしは他の大型貨物船と異なり、シーバースと呼ばれる水深の深いところに設けられた海上の原油受け入れ基地で行われ、受け入れられた原油は海底のパイプラインを通りタンクや精製工場へ直接送られます。
このため、岸壁に船を横づけする必要がなく、港の喫水(船底から水面までの距離)による制限を受けずに済みます。
原油の輸送効率を上げるため原油タンカーは大型化し、1960年にはVLCC(Very Large Crude Oil Carrier)が初めて誕生しました。
その他にも世界各地でその国や地域の需要に合わせたサイズ別のタンカーが活躍しています。
原油タンカーの呼称やサイズは以下の通りです。
- ULCC(Ultra Large Crude Oil Carrier):積載重量32万トン以上
- VLCC(Very Large Crude Oil Carrier):積載重量20万~32万トン
- SUEZMAXスエズ運河を航行できるサイズ:積載重量12万~20万トン
- AFRAMAX運賃の基準となるサイズ:積載重量8万~12万トン
- PANAMAXパナマ運河を航行できるサイズ:積載重量6万~8万トン
日本中東間での原油輸送時に最大喫水21mのマラッカ海峡を通過できるため、VLCCまでのサイズが日本への原油輸送の主力となっています。
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プロダクトタンカー
プロダクトタンカーは、ガソリンやナフサ(粗製ガソリン)、灯油や軽油など、原油から精製された石油製品を輸送するタンカーです。
原油を精製する設備を持たない地域への輸送に活躍しています。
基本的な船の構造や積み下ろしは原油タンカーと変わりなく、多くの種類の液体貨物を同時に積み込めるように、タンクの数を増やしている船もあります。
近年重要が高まっておりさまざまな地域に効率よく必要な量を輸送するため、大型化が進んでいます。
プロダクトタンカーの呼称やサイズは以下の通りです。
- MR型(Medium Range):積載重量2万5000~6万トン
- LRⅠ型(Large Range 1):積載重量5万5000~8万トン
- LRⅡ型(Large Range 2):積載重量8万~16万トン
ケミカルタンカー
ケミカルタンカーは、ベンゼンやトルエン、アルコール、メタノールなどの液体化学製品を輸送するタンカーです。
液体化学製品は危険性の高い貨物であるため、適用規則や積み下ろし、船体の構造など原油タンカーと異なる独自のものが多い傾向にあります。
タンクごとにパイプラインなども独立されており、それぞれの液体貨物が混ざらないよう配慮されているのはもちろん、貨物の特性からタンクやパイプが腐食しやすいため、タンクにはステンレスなどの腐食に強い素材を用いたり、タンク内部やパイプには特殊な塗装を施したりなどの工夫がされています。
貨物の液体化学製品によってはタンク内を高温又は低温に調節する、圧力をかけて安定化させるなどの対応が必要です。
タンカーの経路
日本にはほとんど石油資源がないため、原油の調達を海外からの輸入に頼っています。
一つの調達先に依存しすぎないよう中東やアメリカなど多様な地域から輸入し、調達の安定を図っています。
中東から日本への原油輸入の航路は「オイルロード」と呼ばれており、日本にとって生命線といえる重要な航路です。
中東で生産された原油はペルシャ湾を出てインド洋から太平洋、マラッカ海峡を通過し片道1万2000kmの道のりを大型タンカーであるVLCCによって日本に輸送されてきます。
全長333m、積載重量20万~32万トンのVLCCは約23人の精鋭クルーによって運航されており片道約20日間、原油の積み下ろし5日間を合わせた約45日間かけてオイルロードを往復します。
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タンカーは急に止まれない
タンカーなどの大型船が急ブレーキをかけて止まろうとした場合、停止するまでに15分以上、距離にすると3kmほど進むといわれています。
車やバイク、自転車などにはブレーキが付いていてペダルを踏んだり、レバーを握ったりすればブレーキがかかります。
しかし、船の場合ブレーキはありません。減速した場合はブレーキの代わりにプロペラを逆回転させます。
ボートや小型船ならこれで止まれますが、全長が100mを超える大型船では船の速度が落ちるまでは安全装置が働き、プロペラを逆回転させることができません。
なぜなら正回転していたプロペラの周りには水流が起こっており、エンジン停止後もプロペラは水流の力により回り続けているからです。
この状態からでも無理やりにプロペラを止めるCrash Asternという操作もできますが、エンジンやプロペラを損傷させる可能性が高いため、あくまで緊急用です。
実は、大型船にとって最大のブレーキは船体そのものなのです。
海上を進む船は当然ながら水面下にも船体があり、前進する際に海水による抵抗を受けています。風や海流がない場合、エンジンさえ止めてしまえばこの抵抗により時間はかかりますがそのうち停止します。
つまり緊急用であるCrash Asternを除けば、エンジンを停止させて海水の抵抗による速度低下により、後進可能速度まで減速したところでプロペラを逆回転させ、停止させるというのが通常の方法になります。
まとめ
この記事ではタンカーの概要や種類、輸送経路など解説しました。
タンカーは座礁や事故が起きた場合を想定して、積み荷である液体貨物が流れ出ない構造になっています。
タンカーには原油を輸送する「原油タンカー」、原油から精製された石油製品を輸送する「プロダクトタンカー」、液体化学製品を輸送する「ケミカルタンカー」があり、原油タンカー・プロダクトタンカーではサイズの異なるタンカーがあります。
種類や経路、構造を知ることで、タンカーが私たちの生活に深く関わっていることを身近に感じることができます。
海上のタンカーを見かけた際は、遥かなる旅路の無事を願ってはいかがでしょうか。