サーキットでも安定した走りを披露、SUBARUインプレッサ新型試乗記[MJ]
SUBARUインプレッサがフルモデルチェンジし、一部メディア向けにプロトタイプの試乗会が開催されたので、第一印象をレポートしたい。
今回はまだクルマの登録ができていないということもあり、袖ヶ浦フォレストレースウェイというサーキットでの試乗となった。
〇文・写真:内田俊一 写真:SUBARU
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SUBARUの顔となるクルマ
SUBARUラインナップの入り口にあたるインプレッサは、初めてSUBARU車を購入するユーザーや、軽からのステップアップ、あるいは、アウトバックなどからのダウンサイザーなど幅広いユーザーに受け入れられる、まさに、SUBARUの顔ともなるクルマである。
今回のフルモデルチェンジに関しては別項にコンセプトやデザインについてまとめたので、そちらをお読みいただくとともに、兄弟車のクロストレックに関しても詳細を述べている( スバル クロストレックのコンセプト【デザイナーインタビュー】〜XVとの違い〜 )ので合わせてごらんいただくと、よりインプレッサのポジショニングや性格が理解していただけると思う。
パワートレインなどもクロストレックと共通で、2リッターDOHC直噴エンジンとモーターを組み合わせたe-BOXERが搭載されるとともに、インプレッサのみ2リッターDOHC直噴エンジン搭載のSTグレードが用意される。
最高出力154ps/6000rpm、最大トルク193Nm/4000rpmと、モーターがないぶんを補強するために、e-BOXERのエンジン単体よりも若干出力トルクとも上回っている。
燃費はSTのFFは14.0km/l、AWDは13.6km/l。e-BOXERのFFが16.6km/l、AWDは16.0km/lと公表された。
インプレッサのボディサイズは、全長4475mm、全幅1780mm、全高1515(STは1450)mmと、クロストレックの全長4480mm、全幅1800mm、全高1575mmよりも僅かに小さく、60mm低くなっている。
これは、クロストレックがSUVテイストを加味した前後デザインを採用したことと、車高に関しては225/55R18(リミテッド)というタイヤをクロストレックは装着していること。
そしてサスペンションストロークを若干伸ばし、車高を上げていることによるものだ。
安定した走行姿勢
今回はサーキットという限定的なシーンのみの試乗だったこともあり、市街地での取り回しや小回り性能、発進停止時のマナー、そして燃費などの評価はほとんど行えなかったが、コースインアウト時の視界や、ピットロードに置かれたゴムの段差などで低速時の乗り心地はわずかではあるが確認できた。
走らせたのは先代インプレッサアドバンスAWD、新型インプレッサST-H AWDとFFの3台で、それぞれを乗り換えながらの比較試乗であった。
テスト車をピットロードからコースインさせるとき、当然本コース側の後方から他のテスト車が走ってこないかを確認しなければならない。
そのときにドライバー席から右後ろを振り返って車両がいないことを目視するのだが、そのときに、新型は旧型以上に視界が良好なのに気付くことができた。
どちらもCピラーにある小窓が有効な証左ではあるが、新型の方が小さく見え、ちょっと?と思ったのだが、しっかりと角度等を考えてレイアウトされており、この心配は懸念に終わった。
第1コーナーを過ぎてアクセルを踏み込んでいくと、アクセルを踏み込んだ量に対して、思った通りの加速力を、しかもリニアに手に入れられるのは明らかに新型の方であった。
つまり、それだけ自然な加速力があるということが分かる。
また、6300rpmからのレッドゾーンまでスッキリとまわるのも新型のエンジンの特徴で、先代も回りきるのだが、最後のあたりは若干苦しそうな音になるので、少しためらいを感じてしまった。
なお、レッドゾーンは先代も6300rpmからである。
今回はあくまでもハードな走行ではなかったので、ところどころにシケインが設けられ、かつ、スキール音(タイヤから出るキーという音)は禁止という状況だった。
そのシケインに向けてブレーキングを開始したときも、新旧で大きく違いを感じた。
まずそのブレーキペダルを踏んだ感触が、新型の方がしっかりとした剛性感があることと、踏力に対してブレーキの反応がより自然だったこと。
それからステアリングを切った時に非常にスムーズにステアリング操作ができ、狙った通りのラインをトレースできたのだ。
さらにステアリングの舵角を一定に保つことも可能なので、これまでよりも運転が上手くなったような気持ちにさせてくれる。
一方先代も、素直なコーナリングなのだが、乗り比べると、若干ステアリングを切った時にざらついたような触感と、かつ、舵角修正も多少しなければならないシーンが多かった。
さらに、そのときの姿勢も新型の方は安定しており、不安感はほとんどないのだが、先代は若干リア周りに落ち着きがない印象で、もう少し接地感が欲しいような不安定さが出ていた。
これらを感じた大きな要因は2つある。
ひとつはステアリングに関してで、新型では2ピニオン電動パワーステアリングが採用されたことが挙げられる。
これまでの1ピニオンと比較し、より滑らかでリニアな感触が実現できているのだ。
もうひとつは、ボディ剛性の向上だ。
先代をベースにはしているものの、構造用接着剤をこれまでよりも多い面積で使用し、かつ、様々な主要パーツの取り付け部分の強化が図られたことが大きい。
これまではスポット溶接による点での剛性を保っていたのだが、今回は接着剤による面で剛性を出しているため、より、強固なボディを作り上げることができたのだ。
その結果としてサスペンションの動きをしなやかにさせることが可能になり、安定した姿勢を保てるようになったのと同時に、スムーズに旋回でき、また、乱暴なブレーキングをしても、しっかりとリアの接地性を確保できるように仕立てることができたのだ。
良好な乗り心地
もうひとつ、ドライビングに関して大きな進化があった。
それはドライバーの姿勢だ。
今回、医学的知見をもとにシートなどを設計していることもあり、しっかりと体をサポートしてくれるシートとなった。
その結果として体を支えるために無駄な力を入れなくても済み、ステアリング操作などに集中できるようになったことは大きく、普段使いにおいても無駄に疲れるようなこともなく、大きなメリットとなるだろう。
さて、コースを何周かしてピットロードに戻ると、高さ1cm弱の長いゴムのバーがコース幅いっぱいに通されて、それを乗り越えるようになっていた。
そうすることで、サスペンションの動きが分かる仕組みなのだ。
新型はどちらの駆動に関わらずしなやかにすっと乗り越え、かつ、大きなショックも感じさせなかった。
対して旧型は、ドンという突き上げるショックと、ステアリングが若干ブルブルと震え、ここでもボディ剛性の差を体験することになった。
軽快なFFと安定的なAWD
ではFFとAWDの違いはどうか。
こういったシーンではAWDの方が安定感は高い。
どんな場合でもしっかりとリアの接地感をドライバーに与えつつ、後輪の駆動力もあり全体の姿勢も安定していた。
では、FFはそうでもないかというと決してそんなことはない。
そのうえで、ひらひらと軽快にコースを泳ぎ回れたのはFFの方だった。
ラップタイムを測ればAWDの方が速いだろうが、どちらが運転して楽しいかというとFFだ。
AWDは言葉通り安定感をしっかりとドライバーに伝えてきて、ちょっとやそっとでは破綻に至らない盤石な印象であるのに対し、FFはドライバーに、この辺りが限界ですよとクルマが伝えてくる、言い換えるとクルマとの対話を楽しみながらコースを走ることができるのだ。
ここまで来ると、まさに好みの問題であり、またあくまでも比較をして初めて気づくレベルである。
なので、AWDを買ったからといって楽しくないのかというと決してそういうことではないことを付け加えておく。
先代と新型の両方を乗り比べる機会はなかなかないものだが、今回はその比較をじっくりとすることができた。
結論からいうと、その進化代は非常に大きいといえる。
先代インプレッサも決して悪いクルマではなかったが、ボディ剛性やステアリングフィールの甘さが感じられていたことも事実で、乗り心地や高速での直進安定性が物足りなかった。
また、シートに関しても3時間以上乗っていると疲れを感じることもあった。
しかし、新型ではこうした欠点が大幅に改善されているように感じた。
FFとAWDのどちらを選ぶかは悩ましいところだ。
もし雪道を走る機会が多い、またはインプレッサユーザーの多くは意外にもアウトドアレジャーを趣味にしている方々が多いと聞くので、そういったシーンでの使用もあるというのであればAWDをお勧めしたい。
そうでなく、メインユースは市街地であればFFだろう。
どちらを選んでもクルマの楽しさは十分に感じられ、どこかに出かけたくなる気持ちにさせてくれるはずだ。
クロストレックと同様、じっくりと1000kmほど走らせて、改めて評価してみたい1台である。