【思い出も荷物も詰め込んで】「シトロエン ベルランゴロング」は子どもと一緒に人生を楽しむクルマ[MJ]
〇文:内田俊一 写真:内田俊一・内田千鶴子・ステランティスジャパン
ステランティスジャパンはシトロエンのMPV(マルチパーパスビークル)、ベルランゴに3列7人乗り仕様のベルランゴロングを追加導入した。
価格は443万3千円から。
その発表会にて詳細を取材することができたのでレポートする。
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INDEX
シトロエンとは手の届く価格帯で快適性を提供するクルマのこと
ベルランゴロングの説明に入る前にシトロエンというメーカーについて触れておきたい。
アンドレ・シトロエンが設立したこのメーカーが初めて生産したクルマは1919年6月4日に工場をラインオフした。
その名をタイプA/10HPという。
そこから現在まで絶え間なく多くのクルマを作り続けてきたシトロエン。
そこに一貫して流れているものがある。
それは、誰にでも手が届きやすい価格と、そして快適性だ。
価格に関してはヨーロッパでは初の大量生産方式(いまの自動車工場のように流れ作業で組み立てていく方式)を導入するなどで、低価格化を実現。
快適性に関しては1948年に登場した2CVというクルマが良い例だろう。
当時は既に経営母体がミシュランに移ってはいたものの、この思想は受け継がれた。
開発コンセプトはミシュランから来た当時の副社長、のちにシトロエンの社長となるピエール・ブーランジェによるものだ。
彼が休暇中に工員や商人が使っている手押しグルマなどを見て、ミニマムトランスポーターの必要性を実感したことが始まりといわれている。
そしてその基本コンセプトは、こうもり傘の下にタイヤを4つ付けたようなもの。
つまり可能な限りシンプルに、かつ、合理的なクルマであるということ。
そして、室内の広さと乗り心地を重視するために、長身のピエール・ブーランジェがシルクハットをかぶっても乗ることが可能なこと。
更に、籠いっぱいに生卵を入れて走っても1つも割れることがないこと。
最後に4人と50kgの荷物を載せて50km/hで快適に走行できる性能を持ち、25km/l程度の燃費であることも求められた。
1938年までに300台ほどの試作車が完成し、翌年発売が計画されていたが、第2次世界大戦が勃発。
休止期間を経て1948年のパリサロン(パリモーターショー)でデビューしたのだ。
最初はこのデザインゆえに抵抗も大きかったが、パリはもとよりフランス全土を埋め尽くす大ヒット。
42年間で累計380万台が生産された。
日本でもアニメ、カリオストロの城のクラリスが乗るクルマとして有名かもしれない。
シトロエンの中で断トツ人気のベルランゴ
いまシトロエンは、誰にでも手の届く存在で、より充実した暮らし、気持ちの良い暮らしのために、人々の移動の手段を革新的に変えていこうという目標を掲げている。
これはまさに原点に立ち返ったということだ。
そんないまのシトロエンが開発したのがベルランゴで、2CVの後継ともいっていいクルマである。
日本には2020年に本格的に導入。
実はそれまでのシトロエンは年間全車トータルで2~3000台ほどのレベルにあった。
しかしベルランゴは単独で2020年で1200から1300台、2021年は2800台と、同年シトロエン全体で5894台(JAIA調べ)なので5割弱を占めるクルマにまで成長したのだ。
そんなベルランゴを購入しているのはどういうユーザーなのだろう。
「小さなお子様がいる家族構成の方が大体7割くらいは占めています」と話すのは、ステランティスジャパンシトロエンブランドマネージャーの中山領さんだ。
さらに、「キャンプをはじめとしたアクティビティを楽しむ方々」だという。
つまり、アクティブなライフスタイルを楽しむ子育て中の家族がターゲットなのだ。
ベルランゴの特徴を述べておくと、スライドドアによる高い機能性のほかに、3座独立リアシートや、モジュトップマルチファンクションルーフ、独立して開閉可能なリアガラスハッチをはじめ、多彩な収納スペースを持つ“楽しい”クルマだ。
モジュトップとは、高い室内高を利用し、天井部分に前後方向に延びる収納スペースを確保。
ガラスルーフと組み合わされ、独特の雰囲気を醸し出している。
また、ガラスルーフには電動サンシェード付きなので夏場の室内温度上昇を和らげる工夫もされている。
さらにリアシート頭上後方には容量約60ℓのリアシーリングボックスも配置されている。
室内空間をさらに拡大
このベルランゴをベースにホイールベース(前後タイヤ間の長さ)を伸ばし3列シート化したのがベルランゴロングだ。
上記の中でモジュトップやリアシーリングボックスは装備されないのは残念だが、オプションでルーフに長尺ものが乗せられるインテリアルーフバーが用意されている。
ボディサイズは、全⻑4,770mm(2列のベルランゴ比+365mm)、全幅1,850mm(±0)、全高1,870mm(+20mm)、ホイールベース 2,975mm(+190mm)だ。
全高が20mm高いのはリアの積載量が増加することを踏まえ、若干リアのサスペンションの減衰力に手が入り、空車状態ではサイドから見ると若干尻上がりになっているからだ。
実際のサイズ感はトヨタノア・ヴォクシー、日産セレナと同じくらいで、若干ベルランゴの方が幅は広いと思えば間違いはない。
その分走行安定性は高いといえる。
3列目シートは独立しており2列目よりも座面を高く設定。足元のスペースやヘッドクリアランスも十分にある。
13cm前後スライドができるので、必要に応じて乗員とラゲッジスペースのどちらかを優先することも可能だ。
乗員がいない場合は、背もたれを折りたたむ、あるいはシートそのものを取り外すことも可能だ。
助手席までフラットにすると、3メートル超の長尺物を積載することが可能。
2列目のシートを倒し、3列目を取り外した場合の最大のスペースは2693リッタ―とベルランゴよりも567リッター拡大している。
パワートレインはベルランゴと同様に、1.5リッタークリーンディーゼルエンジンに、電子制御8速オートマチックトランスミッションが組み合わされる。
その出力とトルクは130 PS/300Nmと必要にして十分である。
グレード構成は、SHINEとSHINE XTR PACKの2種類で、上級グレードであるSHINE XTR PACK には、17インチホイール & タイヤ、前後バンパーのアンダーガード風デコレーション、オレンジマットのカラーパック、フロントドアバッジ、専用のシート柄、専用ダッシュボードおよびドアトリムを装備。
両グレードともに、縦列および並列駐⾞時にステアリング操作を⾃動で⾏うパークアシスト機能が装備されている。
カラーバリエーションは、SHINE XTR PACKが、ブランイシ、グリアルタンス、グリプラチナムの3色、SHINEはこれにディープブルーを加えた4色の設定だ。
子供と一緒に人生を楽しむクルマ
これまでベルランゴを何度か長距離テストした印象は、非常に使い勝手の良い快適なMPVということに尽きる。
高速での走行安定性だけでなく、シートの出来が良いので疲れずにどこまでも走って行きたくなるような魅力に富んでいる。
一方街中でも足回りのしなやかさが際立ち、あれ?この道はこんなに凸凹がなかったっけ?と感じるくらいだ。
ただし、若干横幅が広いので、そこは注意が必要である。
この辺りの印象はベルランゴロングでも変わらないだろうし、ホイールベースが長くなった分、高速の直進安定性はより高まっているかもしれない。
ではベルランゴとベルランゴロングのどちらがお勧めか。
素直に中山さんに聞いてみると、「都市部だと5シーターの標準ボディー、郊外だと7シーターのロングボディーが良いのでは」とのこと。
これはあくまでも大きな括りだが、大きな荷物を運ぶかどうかで別れるのではというのだ。
郊外であればお住まいやガレージなどにスペースがあるので大きな趣味のものを持っている確率が高く、そういったものを運ぶのであればより室内空間が広い方が安心。
さらに、3列目シートが取り外せるので、その置き場所も考えたい。
しかし、それほど大きな荷物などがなければ取り回しの良い標準ボディーがお勧めということだ。
最後にベルランゴとベルランゴロングについて中山さんは、「人生を楽しむクルマです。子供と過ごす時間は人生トータルで見ると意外と少ないもの。そこを思いっきり楽しんでもらうためのクルマです」と位置付ける。
そのために、まず機能的価値としてスライドドアを挙げ、「スライドドアでないと載せにくい荷物など色々あるでしょうから、そういうところを含めて家族の方々に不便なく使ってもらえるでしょう」という。
そして、情緒的な価値として、「家族の思い出になるようなところにベルランゴで行って、このクルマと一緒に楽しんでもらえたら嬉しいですね」とコメント。
そこまで行くのに疲れては元も子もないし、遊びきったあとは疲れてしまうもの。
その帰り道もベルランゴであれば、そっと優しくドライバーを、そして同乗している家族も家まで安全に送り届けてくれるだろう。
まさに家族で楽しくお出かけするクルマの1台としてショッピングリストに乗せるにふさわしいクルマといえる。
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