燃料電池車が普及しない理由とは?今後の見通しについても解説
近年は国がエコカーに対する減税策を行うなど、エコカー需要が高まっています。
たとえば「エコカー減税」「グリーン化特例」「環境性能割」などが、主な制度となっています。
エコカーと聞くと、ハイブリッドカーなどの排気ガスの排出量が少ない車をイメージする人も多いかもしれません。今回の記事で紹介する燃料電池車の存在を知らない人は少なくないでしょう。
この記事では、究極のエコカーともいえる燃料電池車の概要について解説しつつ、現状日本で普及していない理由についても紹介します。
燃料電池車について知ることで、未来の自動車を取り巻く環境が見えてくるかもしれません。
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INDEX
燃料電池車の概要
燃料電池車は、FCV(Fuel Cell Vehicle)と呼ばれることもあるエコカーの一種です。
燃料電池車の動力源は、名前の通り燃料電池です。
燃料電池とは、水素と空気中の酸素が化学反応を起こし電気エネルギーを発生させる発電装置のこと。この電気エネルギーでモーターを動かすことで、車が走る仕組みなのです。
燃料電池車が走る上で必要な水素は、水素ステーションと呼ばれる施設で補充できます。
カラの状態から満タンにするまでに必要な時間は約3分と、ガソリン車と同じくらいの時間で燃料補充は完了します。
2022年12月現在、日本のメーカーで製造されている燃料電池車は、トヨタの「MIRAI」のみです。
最も安価な「Gグレード」でも7,100,000円と設定されており、車両本体の値段の高さこそ燃料電池車が普及しない理由の1つとしてもあげられています。
燃料電池車に似た車として「水素エンジン車」というものがあります。
燃料電池車も水素を利用することから、広い意味で水素自動車と呼ばれることもあります。しかし水素エンジン車には燃料電池がありません。水素自体をエンジンで燃焼させてエネルギーを得ることで、車を動かします。
また、エコカーとして世間一般に有名なのは、電気自動車(EV車)です。
電気自動車は、充電スタンドなどで補充した電気が動力源となっています。燃料電池車や水素エンジン車と比べると実用性が高くなっており、流通量も多い特徴があります。
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燃料電池車のメリット
ここでは、燃料電池車のメリットをいくつかに分けて解説します。
環境に配慮されている
燃料電池車の特徴の中でも一番のメリットといえるのが、環境への配慮でしょう。
車の排出する排気ガスが環境汚染につながる点は、長い間課題となっています。近年では、ハイブリッドカーをはじめとしたエコカーも増えているものの、二酸化炭素や窒素酸化物などの排気ガスは0にはなりません。
燃料電池車であれば、車から排出されるのはエネルギーを生み出す際に作られた水蒸気がメインとなり、環境に有害な排気ガスは排出されません。
静粛性が高い
ガソリン車やディーゼル車と異なり、燃料電池車は非常に静粛性が高い点もメリットといえます。
アクセルを踏むと車がスッと動き出す感覚は、一般的なガソリン車では味わうことができません。ドライバーや同乗者は、車の中でとても快適なひとときを過ごせるでしょう。
また、車外にいる人にとっても騒音になりにくいというメリットもあります。
深夜や明け方といった静かな時間帯でも、周囲に気にすることなく車を利用できるでしょう。
燃料補充が簡単にできる
カラの状態であっても、燃料補給はおよそ3分で完了します。同じく環境に配慮されたEV車の場合、急速充電器を使用したとしても30分程度の充電時間が必要です。この差はかなり大きく、燃料電池車の大きなメリットといえるでしょう。
またトヨタ MIRAIの場合、燃料を満タンにした際の航続距離は750km~850kmとなっており、一度の燃料補給で長い距離を走れる点もメリットといえます。
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燃料電池車のデメリット
ここでは、燃料電池車のデメリットについて解説します。
高級車の価格帯になっている
燃料電池車の価格は、高級車の価格帯といえるでしょう。
トヨタ MIRAIの場合、最も安価なグレード「G」でも7,100,000円となっており、最上位グレード「Z “Executive Package Advanced Drive”」の価格は8,600,000円です。
人気高級車でもあるレクサスの「RX450h+“version L”グレード(8,710,000円)」とほぼ同程度の価格であることからも、燃料電池車は簡単に手に入れられる車とはいえません。
なお実用化には至っていないものの、冒頭で紹介した水素エンジン車が市販された場合、燃料電池などの装備が不要になるため、燃料電池車よりも安価になるといわれています。
水素ステーションの数が圧倒的に少ない
燃料電池車の燃料補給に欠かせない水素ステーションの数は、他の燃料補給所に比べて、圧倒的に少ないといえます。
たとえば、一般的なガソリンスタンドが日本には約29,000カ所(令和2年度末時点)あるのに対し、水素ステーションは約160カ所しかありません。
ちなみにEV車が充電できる設備は、急速充電器の数だけでも約8,000カ所あります。EV車の場合はこれに加えて、普通充電器スタンドがあったり、自宅充電もできたりするため燃料電池車の利便性の悪さが際立ちます。
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燃料電池車が普及しない理由とは?
ここからは、燃料電池車が普及しない理由について、解説していきます。
燃料電池車の価格の高さ
デメリットの項目でも触れたように、価格の高さと利便性の低さは、燃料電池車が普及しない大きな理由の一つです。
燃料電池車の価格帯は高級車のそれであり、その原因として燃料電池の製造コストの高さを上げることができます。燃料電池のコア部分で白金などの貴金属を大量に使用することが価格の高騰につながっています。
他にも、車の構造が複雑で部品点数が多いことなどから、製作コストが高い点は解消するのは難しい問題です。
しかし、高級車が一定層にしっかりとした人気があることからも、燃料補給ができる水素ステーションの数が少ないという利便性の低さが、普及しない一番の理由かもしれません。
なぜ水素ステーションは少ないのか
車のメリットは「いつでも、どこへでも行ける」という点です。
しかし、車を走らせるために必要な燃料補給が簡単にできない状況であれば、このメリットは享受できないといっても良いでしょう。
水素ステーションの建設が簡単にできない理由として、その建設費用の高さがあげられます。
一般的なガソリンスタンドの建設費用が7~8千万円というのに対し、水素ステーションの建設費用は5~6億円ともいわれています。
また仮に建設した後も、燃料電池車が普及していない現在の状況においては、安定した経営ができないという点も建設が進まない要因といえるでしょう。
なお、かつてはホンダも 「クラリティ FUEL CELL」という燃料電池車を製造していましたが、2021年9月に製造を中止しています。明確な製造中止理由は発表されていないものの、2016年に発売されて以降、累計販売台数が約1,900台と低迷したことが原因のひとつでしょう。
とはいえホンダは、2024年からアメリカで新型燃料電池車を製造する計画を発表しています。
詳細はまだ分からないものの、新たな燃料電池車が今後普及するのかどうか注目されます。
現状、個人向けには燃料電池車が普及していないのが実情です。まずはバスやトラックなど特定の区間を走行する大型車のように、燃料補給のしやすい商用利用の車から、すそ野を拡大する方が良いかもしれません。
水素の製造コストと供給・輸送・貯蔵の問題
水素自体の製造にも、多くのエネルギーが必要となります。
水素をクリーンに大量生産する技術はまだ発展途上であり、現段階では多くの水素が化石燃料を使って製造されており、これがコストの増加と環境問題へとつながっています。
また、水素の特徴としてその軽さと揮発性があり、効率的に輸送する方法や貯蔵する方法にも課題があります。
水素の安全な輸送と長期的貯蔵には、高圧タンクや低温での保存が必要であり、これにかかるコストや技術的課題が、インフラ整備をより難しくしています。
電気自動車の普及と認知度の低さ
昨今、電気自動車の技術が急速に発展し、同時に充電インフラも拡充してきています。
電気自動車は燃料電池車と比べて家庭や公共の充電施設で比較的簡単に充電することができるため、水素と比べれば普及のハードルが低いと言えます。
また、燃料電池車はまだまだ認知が低く、技術や利便性、安全性などについて情報が十分に拡散されておらず、消費者としての選択肢として燃料電池車が挙がってこない、という問題があります。
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まとめ
この記事では、燃料電池車の概要と、普及しない理由について解説しました。燃料電池車は、メリットの側面だけをみると夢のような先進的な車です。とはいえ、普及しない現状にはしっかりとした理由も存在しています。
燃料補給のために必要な水素ステーションが少ないことで、車本来の「いつでも、どこへでも行ける」というメリットが生かせない状態になっています。そして車両価格の高さがネックになる人もいるでしょう。
燃料電池車が普及するためには、今回紹介したような大きなハードルがあります。しかしホンダが新たな燃料電池車を発表したように、新しい未来が少しずつ近づいているのかもしれません。