三菱らしさとその良心を併せ持つ三菱デリカミニってどんなクルマ?デザイン&コンセプト インタビュー[MJ]
現在予約受付中である三菱の軽スーパーハイトワゴン、デリカミニ。
5月25日に発売されるが既に3月時点で7000台を超える予約が入っている人気車種だ。
このたび一部報道陣に説明会が開催されたので、なぜこのクルマが登場したのか、その特徴やデザインについて話を聞いたので、まとめてみたい。
〇文・写真:内田俊一 写真:三菱自動車工業
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INDEX
ekシリーズではなくデリカシリーズにしたわけ
三菱の軽乗用のラインナップを見ると、ハイトワゴンのeKワゴンとeKクロス、スーパーハイトワゴンのeKスペースとeKクロススペース、そして電気自動車のeKクロスEVが存在する。
そこにあえてスーパーハイトワゴンのデリカミニ、しかもeK名ではなくデリカの称号を与えてのデビューとなった。
そこで、開発責任者の三菱商品自動車工業戦略本部チーフ・プロダクト・スペシャリストの藤井康輔さんに疑問をぶつけてみた。
藤井さんは、eKクロススペースのコンセプトから説明を始める。
「このクルマの本来のコンセプトは、よりSUVテイストを強めてアウトドアのイメージを高めたものでした。
しかし市場に投入したところ、他社のカスタム系のクルマぐらいにしか感じられていなかったのです」という。
カスタム系とは、例えばダイハツタントカスタムや、スズキスペーシアカスタムなど、標準車に対して少しアグレッシブなスタイルや内装を持ったクルマを指し、eKクロススペースもそれと同じように受け止められていたのだ。
そこで三菱としては、本来目指していたSUVやアウトドアのイメージを色濃く反映したクルマが改めて必要と考えた。
昨今のキャンプブーム、アウトドアブームの影響から、そういったシーンに使えるクルマが求められているという市場環境も今回の開発の後押しとなったのである。
そこで次の疑問だ。
eKクロススペースの特にデザイン面においてSUVテイストが足りなければ、モデルチェンジでその方向性を持たせる方法もある。
しかし、なぜ全く違う名前にしたのだろう。
藤井さんは、
「もっとSUVらしく、もっとアウトドアで使えるようなクルマというエッセンスを考えると、デリカで長年提供してきた、
“大切な仲間や家族と過ごす大切な時間の提供、楽しい時間の提供”
につながるのではないかと思ったのです。
それであればeKシリーズの1つではなく、デリカシリーズとして位置付けた方がお客様に対しても説明がしやすいですし、デリカの名を冠するにふさわしいクルマだということで、デリカになりました」と説明。
そのデリカの場合、D:5やD:2といったサブネームが続く。
しかしこのクルマはD:1ではなくデリカミニだ。
「もちろんD:1という案もありました」と藤井さん。
しかし、
「軽スーパーハイトワゴンのメインのお客様はヤングファミリー、特に女性の方なのですが、デリカというクルマは知ってはいても、ごつい男の人が乗るクルマで自分とは関係ない、遠い存在というイメージでした。
ただ、デリカ“ミニ”にすると、すごく親近感が湧くということが調査で分かりましたので、デリカD:1ではなくデリカミニという名前にしました」と教えてくれた。
オフロード性能も確保しつつ
デリカミニとなる経緯はよくわかったのだが、今度は開発コンセプト、何を重要視して開発されたのか。
「軽自動車のスーパーハイトワゴンとしての使い勝手や、取り回しの良さ、安全装備というところはすでに(eKクロススペースで)充実していましたので、そのうえで、デザイン面として軽自動車という限られた枠の中にいかにデリカのエッセンスを取り入れていくかがひとつ。
そしてデリカという名前をつけるわけですから、悪路走破性をどこまで向上させるか。
つまり、デリカは本格4WDを採用してますので、オフロードでもガンガン走っていける仕様です。
しかし、デリカミニは軽自動車ですので、どこまでそういった性能を取り入れるか。
この2つが注意したポイントです」とのことだった。
またターゲットとなるユーザー層は、
「クルマを使ってキャンプに行ったり、スキーに行ったりなどアウトドアに使われる方はもちろん、そういったことをやってみたいけど1歩踏み出せない方の、そのきっかけにしていただきたいクルマでもあります」と藤井さん。
さらに、
「街中でもすごく映えるデザインだと思っています。
最近アウトドアのジャケットなどは、ファッションアイテムのひとつとして普通に街中で着られていますよね。
そういったものと同じで、このクルマも街中で走っていても、ちょっとお洒落というぐらいのイメージを持っていると思いますので、そういったことを好まれる方にぜひ乗っていただきたいですね」と語っていた。
機能面でも、
「SUVほど本格的な4WDの機能は持っていないにしても、このクルマを使ってキャンプ行った際に、ちょっとした悪路を走ったりする時もあるでしょう。
そういったところでも、家族が安心して運転できるクルマには仕上げています」と藤井さん。
サスペンションなどは本格的ではないにしても、大径タイヤを採用することで車高を上げ、ショックアブソーバーの減衰力を変更することで、悪路走破性はeKクロススペースを上回るチューニングが施された。
さらにeKクロススペースと同様に軽スーパーハイトワゴンとして唯一、ヒルディセントコントロール(悪路の急な下り坂などで、ブレーキを踏まなくても設定した約4~20km/hの範囲で速度をコントロールする機能。アクセルやブレーキをクルマに任せることで、ステアリング操作に集中できる)も採用しているあたりも、かなりSUVテイストを色濃く反映しているクルマといえよう。
最終的にデリカっぽい雰囲気を纏わせたい
では、このデリカミニで最も重要とされたデザインについて聞いてみよう。
同社デザイン本部プログラムデザインダイレクターの松岡亮介さんは、
「まずデリカらしさとは何だという議論を社内でかなりやりました。
そのときにデザインとして“やりたくなかった”のは、いまあるデリカのデザインをそのまま持ってきて、だからデリカでしょというものです。
ですから“デリカネス”みたいなものをどう引き継ぐか、その結果として全体から醸し出す雰囲気がデリカっぽいというところが最終地点としましたので、いまのデリカのデザインにはあまりとらわれずにデザインをしています」
と話し始める。
しかし、グリルなどは四角いモチーフがはまっていて、先代デリカD:5の印象も強く感じる。
「当然少しも気にしていなかったといえば嘘になります」と松岡さん。
しかし、「そんなに気にしていたわけではなく、色々な案がある中で、(デリカのデザインに)こだわって何かを持って来なければいけないということにはとらわれずにデザインしました」という。
そのデリカネスとは何だろう。
「多人数乗車でスペース効率がいいクルマが第一です。
それとリフトアップしてどこへでも行けるようにというコンセプトを合体させたものがデリカです。
それをこの軽スーパーハイトワゴンというセグメントのこの小さいクルマでどこまで表現できるのか。
そこがチャレンジングポイントでした」と語る。
確かにそのデザインはeKクロススペースとは大きく違って見える。
その変化点について松岡さんは、
「グリル、ヘッドランプとバンパーは全て変えてますが、実はボンネットは同じなのです」と教えてくれた。
だだし、元々ボンネットは共通にすることが前提でスタートしたのではなく、「デリカ感を再現するのにボンネットが使えたから使っただけ」とのことだった。
リアは、「デリカと書いてあるガーニッシュ類とバンパーは新しいのですが、リアゲートの板金部分は基本的には同じもの」とし、「あまり変わり映えはしないかも」とも。
松岡さんとしては、「バンパー部分はかなり気配りをしていて、特にまるっと黒く塗ってる部分も含めて、リアから見た時のスタンス、佇まいからリフトアップした感じが出せていると思います」と述べ、差別化は十分だとの判断だった。
母性をくすぐるやんちゃ坊主がテーマ
デザインとしてのこだわりのひとつにフロントフェイスがある。
三菱はデザインを開発するにあたり、デザインパーソナリティを重要視する。
これはクルマの顔を擬人化した時に、どういう性格で、どういうキャラクターの人間なのかを定めてからデザインしようというもの。
「特に軽自動車ユーザーは女性が多く、例えばヘッドランプとはいわずに目という表現をされますよね。
グリルも口が開いてるとかの鼻がどうとか、完全に顔として表現されます。
男性でもそういう方もいらっしゃいますが、特に女性のそのあたりの感度が高いので、ランプではなく目という意識を刷り込みながらデザインをしていきました」と話す。
デリカミニのキャラクターは、
「やんちゃ坊主というキーワードを掲げています。
小学校の低学年ぐらいの男の子で、アクティブでやんちゃですごく活発な子なんですが、見ていてなんかちょっとほっとけないような、ちょっと可愛げのある母性本能くすぐるような感じ。
この辺の落としどころの顔にしたいという思いです。
なので可愛いんだけど、ちょっとキリっとクリッとしてる目などのイメージを持たせています」とコメント。
従ってこの目は重要なポイントだ。
「まさにミリ単位で何パターンも作りました。
輪っかをどこで切ると1番いい目に見えるか。
キリっとして格好良いいのはどこか、可愛いはどこまで切ったら大丈夫なのかはかなりトライしました。
下で切りすぎるとちょっと怒り顔が強すぎたり、眠くなってもしまうんです。
逆に上で切りすぎると、今度は可愛いが勝ってしまって、格好良さがなくなるんですね。
そこのさじ加減は本当に難しかった」と松岡さんはその苦労を教えてくれた。
塗装にも大きなこだわり
では、デザインをするうえで最も苦労したところは顔周りだったのかと聞いてみると、それ以上に苦労したところがあった。
それはフェンダーの黒とボディーカラーの塗り分けだった。
デザイナーは黒をフェンダーに入れることでSUVっぽさを強調した絵を描く。
それを実現する方法としては取り付けるか塗るか2択になるのだが、軽自動車なので全幅がギリギリで設計されているため、あとからパーツを取り付けるのは不可能だ。
それであればステッカーみたいなものを貼り付けることもあり得るが、「デリカというブランドでステッカーというは、お客様は納得しないでしょう」と松岡さん。
そこで、「しっかりと質感を保つためにもせめてピアノブラックで塗装をしようと決めました」という。
しかし、本来塗り分けを想定していなかったことから、ガイドラインも目印もない。
そういったところに、「それこそ何千台、何万台と塗り分けていかなければならないので、実はほぼ不可能なのです。
そこで、ジグ(工作物を固定する道具)を使い、マスキング塗装の専門の職人が手作業で塗装しています。
角もどこまで丸く出来るかなど何十回もやり直して完成しました」とのことだった。
さらにもっと細かいこだわりがあった。
それは塗る順番だ。通常の塗装は塗装面が大きい方を先に塗って、小さい方はあとから塗るようにする。
その方が、工程の手間が少なく、また塗料が少なくて済むのでコストや作業時間が削減できるからだ。
しかし、デリカミニはあえて逆の方式にした。
もちろん前述のジグを使った塗装工程の関係もあるのだが、それ以上に重要なポイントがあった。
松岡さんは、「実際に触ってもらうとわかるのですが、黒の方が奥にあり、ボディーカラーが外に出ているんです」と説明する。
工程としては、まずフェンダー部分の黒をボディ全体に塗り、そのあと、ジグで黒く残したい部分をマスキングして、最後にボディーカラーを塗装しているのだ。
それはなぜか。塗装には塗膜といってほんの僅かではあるが厚みがある。
当然塗装の上に再び塗装をすると厚みが違ってきてあとから塗った方が上になるわけだ。
もしデリカミニで先にボディーカラーを塗って、そのあとフェンダーの黒を塗ったとしよう。
そうすると、フェンダーの黒があとから塗ったことになるので、その段差は上に向くことになる。
そうするとその段差に汚れや雨や雪が溜まりやすくなり、耐候性などが気になってしまう。
そこで、先に黒を塗ってから残したい部分をマスキングしてボディーカラーを塗ると、ボディーカラーが上になるので、段差は下を向く。
結果として汚れや雨や雪は溜まりにくくなるわけだ。
本当に細かいこだわりなのだが、三菱の良心が垣間見えるエピソードである。
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アウトドアファッションからインスピレーションを得たインテリア
ここまでエクステリアを多く語って来たが、インテリアにもこだわりがある。
松岡さんによると、「インパネ周りの形状そのものはeKクロススペースと変わっていませんが、色のコーディネーションを少し変えています。それからシートはインテリアで1番こだわっています」という。
これはカラーデザイナーのインスピレーションで、
「アウトドアトレンドやファッションを見ていて、ダウンジャケットがキルティングでモコモコしてるような感じをシートのテクスチャーに使いたいというインスピレーションを得たのです。
それが発端になって、耐久性や耐候性、見栄えも含めて実現ができるかをテストしていきました」と話す。
また、「ポコポコと立体的になっていますので、座った時にお尻の接地面積が少なくなるんですね。
そうすると通気性が良かったり、蒸れなかったりと女性の評価がすごく高かったのです。
そこでこれいけると今回採用に踏み切りました」と説明してくれた。
このようにデリカミニは、SUVテイストやデリカらしさを表現するなどで、これまで以上に三菱の思いが詰まったクルマだといえる。
さらに、三菱らしい生真面目なクルマつくりが垣間見える。
その代表例が塗装の件だ。
機会があればショールームなどでぜひこの塗装面を指で触って、他車と比較をしてほしい。
そうすればこの手の込んだ仕上げになるほどと納得してもらえるはずだ。
なお、デリカミニが出ることによって、eKクロススペースは生産が終了したことを付け加えておこう。
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