燃料電池車(FCV)の仕組みを化学反応式で簡単にわかりやすく解説!
燃料電池車(FCV: Fuel Cell Vehicle)は、化石燃料に依存しないクリーンなエネルギー源として、世界中で注目を集めています。
FCVでは、水素と酸素の化学反応を利用して電力を生成し、電動モーターを駆動させることで車を動かします。
今回は、燃料電池車の基本的な仕組み、メリット、そして持続可能な未来への影響について詳しく掘り下げていきます。
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INDEX
燃料電池の仕組み
燃料電池は、燃料としての水素やメタノールを酸化させる化学反応により電力を生成します。
ここでは、燃料と酸化剤(通常は酸素)が反応して、電子を放出し、電気エネルギーを生み出します。
この反応は2つの主要な部分、すなわち酸化反応(アノードで起こる)と還元反応(カソードで起こる)に分けられます。
化学反応式の例
- 水素燃料電池
- アノード反応:2H2→4H++4e−
- カソード反応:O2+4H++4e−→2H2O
- 全体反応:2H2+O2→2H2O
- メタノール燃料電池
- アノード反応:CH3OH+H2O→CO2+6H++6e−
- カソード反応:3O2+12H++12e−→6H2O
- 全体反応2CH3OH+3O2→2CO2+4H2O
これらの反応式は、燃料電池の基本的な化学反応を示しています。
水素燃料電池は、最も一般的で研究されているタイプの一つであり、そのシンプルな反応式から高いエネルギー効率を実現します。
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燃料電池車の仕組み
燃料電池車の主要部は「燃料電池スタック」と呼ばれる部分で、ここで化学反応が起こり電気が生成されます。
上記の水素燃料電池と同じ原理ですが、ひとつずつ見てみましょう。
- 水素の供給
- 車載の水素タンクから燃料電池スタックに水素が供給されます。
- 酸化反応
- アノード(負極)で水素分子がプロトンと電子に分離されます。
- 化学反応式:2H2→4H++4e−
- 電子の流れ
- 分離された電子は外部回路を通ってカソード(正極)へと流れ、この流れが電気エネルギー(電力)となります。
- 水の生成
- カソードで酸素分子がプロトンと電子と反応し、水を生成します。
- 化学反応式:O2+4H++4e−→2H2O
この一連の化学反応により、燃料電池は水素と酸素から電力を生成し、水を排出します。
生成された電力は、車を動かすための電動モーターに供給されます。
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燃料電池車の主要な部品
燃料電池車は以下のような部品が動力源となり動きます。
水素タンク
水素タンクは、高圧状態で水素ガスを安全に蓄えるための容器です。
現代のFCVでは、700バール以上の圧力で水素を貯蔵することが可能です。
燃料電池スタック
燃料電池スタックは、多数の燃料電池ユニットを重ね合わせたもので、車に必要な電力を供給します。
各ユニットはアノード、カソード、電解質膜から構成されており、水素と酸素の反応を促進します。
電動モーター
電動モーターは、燃料電池からの電力を機械的エネルギーに変換し、車輪を回転させる役割を担います。
燃料電池車では、この電動モーターが直接駆動力となります。
制御システム
制御システムは、燃料電池の動作を最適化し、電力の生成と消費を調整します。
また、水素の流量や燃料電池の温度など、車両の重要なパラメータを監視します。
燃料電池車のメリット
ここでは燃料電池車のメリットを紹介します。
環境への影響が小さい
燃料電池車は、水以外に排出物を出さないため、大気汚染物質や温室効果ガスの排出が極めて少なく、ガソリン車の代わりになるエネルギーとして注目されています。
高いエネルギー効率
化石燃料を燃やす従来のエンジンに比べ、燃料電池はエネルギー変換効率が優れています。
エネルギー効率を比較すると、ガソリン車の約2倍の性能を誇ります。
燃料電池は、化学反応によって直接電力を生成するため、エネルギー変換効率が高く、また、電気自動車と異なり、充電によるエネルギー損失がないため高い効率を誇っています。
また、充電時間が約3〜5分と電気自動車の数倍早く充電が可能で、ガソリン車のガソリン補給にかかる時間とほぼ変わりません。
長距離走行が可能
水素タンクの充填時間が短く、一度の充填で長距離を走行できるため、利便性が高いです。
燃料電池車の航続距離は、車種や水素タンクの容量によって異なりますが、一般的には500kmから800km程度です。
これは、ガソリン車や電気自動車よりも長い航続距離と言えます。
実際にトヨタのMIRAIは1,003kmの世界記録を樹立しました。
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燃料電池車の課題
燃料電池車があまり普及しない理由としては、以下のようなものが挙げられます。
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水素インフラの整備が追いついていない
水素ステーションの不足は、燃料電池車の普及における大きな障壁となっています。
電気自動車ではかなり充電スポットが増えましたが、水素はまだほとんど追いついていません。
コストが高い
燃料電池の製造コストや水素燃料のコストが高いため、本体車両価格が高くなります。
MIRAIは726万円〜、クラウン セダンの燃料電池車モデルは830万円〜とやはり手が届きにくい価格帯です。
経済的な普及にはさらなる技術革新による低価格化が求められます。
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燃料電池の種類と特徴
車以外にも燃料電池には、使用する電解質や動作温度によって多くの種類があります。
代表的なものには、固体高分子型(PEMFC)、アルカリ型(AFC)、リン酸型(PAFC)、固体酸化物型(SOFC)、モルテンカーボネート型(MCFC)があります。
各種類の燃料電池は、特定の用途に適した特性を持っており、それぞれが異なる反応式と動作原理を有します。
固体高分子型燃料電池(PEMFC)
固体高分子型燃料電池は、水素を燃料とし、比較的低温(約80℃)で動作します。
固体高分子型燃料電池(PEMFC)は、起動時間が短く、小型で軽量なため、自動車や携帯電源などの移動用途に適しています。
アルカリ型燃料電池(AFC)
アルカリ型燃料電池(AFC)は、純粋な水素と酸素を使用し、アルカリ水溶液を電解質として使用します。
このタイプは、宇宙船や潜水艦など、純粋な燃料と酸化剤が利用可能な特殊な環境で使用されることが多いです。
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固体酸化物型燃料電池(SOFC)
固体酸化物型燃料電池は、高温(約1000℃)で動作し、セラミックスを電解質として使用します。
この高温での動作により、天然ガスなどの炭化水素燃料を直接使用でき、非常に高いエネルギー変換効率を実現します。
まとめ
燃料電池車は、その高効率かつ環境負荷の低い特性により、未来の自動車産業を牽引する技術として期待されています。
持続可能な社会への移行に向けて、燃料電池車の技術的な進化と、それを支えるインフラの整備が不可欠です。
燃料電池車の普及は、エネルギーの持続可能な利用と環境保全の両立を実現するための重要な一歩と言えるでしょう。