燃料電池車と水素自動車の違いとは。メリット・デメリットも解説
近年、ガソリン車やディーゼル車に代わる次世代のエコカーとして、燃料電池車と水素自動車への関心が高まっています。
この2つの車はどちらも水素を動力エネルギーとし、CO2がほとんど排出されない点が最大の強みです。
2014年には世界初の量産型燃料電池車であるMIRAIをトヨタが発売し、国内外から大きな注目を集めました。
ところがコスト面や燃料の製造過程に問題があるために、水素を利用した車はいまだ普及が進んでいないのが実情です。
この記事では、燃料電池車と水素自動車について、それぞれの特徴や仕組み、メリット・デメリットを紹介します。水素を利用した車の課題についても解説しますので、参考にしてください。
関連記事:燃料電池車が普及しない理由とは?今後の見通しについても解説
INDEX
燃料電池車とは
燃料電池車とは、水素と酸素の化学反応で発生する電気をエネルギーとする車です。
英語のFuel Cell Vehicleを略して、FCVと呼ばれることもあります。
FCVにはエンジンが搭載されておらず、電気を使ってモーターを回すことで駆動力を生み出します。
燃料電池内で貯蔵タンクの水素と空気中の酸素を合流させ、化学反応を起こして発電しながら走るのが特徴です。
燃料となる水素は、全国に設置されている水素ステーションで補給します。
2023年11月現在、市販されている国産FCVはトヨタが製造するMIRAI、クラウン(セダン)のみです。
関連記事:トヨタのEV戦略や水素社会への取り組みに対して海外の反応は?
燃料電池車のメリット・デメリット
ここでは、燃料電池車のメリットとデメリットを項目分けして紹介します。
燃料電池車のメリット
FCVのメリットとしてまず挙げられるのは、温室効果のあるCO2や大気汚染の原因となる窒素酸化物(NOx)などを、走行時にほとんどもしくはまったく排出しない点です。
動力エネルギーとなる電気をつくり出す際には、水素(H2)と酸素(O2)の化学反応で発生した水(H2O)のみが排出されます。
FCVはエネルギーを効率的に動力へ変換できるという魅力もあり、ガソリン車よりも2倍ほど高い効率での走行が可能です。
さらに、発電しながら走行するため電気自動車のように長い充電時間がかからず、一度の補給で長く走り続けられます。
2020年から発売されている新型MIRAIの場合、航続距離は最長約850kmとガソリン車に匹敵する数値です。
関連記事:トヨタは水素自動車から撤退しない?トヨタが販売する「MIRAI」についても解説
燃料電池車のデメリット
一方でFCVは、搭載される燃料電池にプラチナなどのレアメタルを使うため、車体価格が高額になりやすい点が懸念されます。
購入する際に最大255万円の補助金を活用できるものの、ガソリン車やディーゼル車に比べて負担が大きくなる可能性が高いです。加えて燃料に99・97%という高純度の水素が必要なため、燃料費もかさみます。
エンジンが搭載されておらず、走行時の音が静かすぎることもFCVの問題点です。
静粛性はメリットにもなる得る一方で、従来の運転感覚を好む人には向いていないでしょう。
歩行者にとっても近づいてくる車が察知しにくく、事故に遭う危険性が高まります。
水素自動車とは
水素自動車は、エンジン内でガソリンの代わりに気体もしくは液体の水素を燃焼させて動力に変換する車です。
FCVとは水素を燃料とする点で似ている一方、ガソリン車とほとんど同じ仕組みのエンジンが搭載されている点は異なります。
水素を燃焼して爆発させる際に発生する水蒸気や窒素、余剰酸素などの圧力を利用してピストンを動かすことで、走行できる仕組みです。
現在、水素自動車は世界でも実用化に至っておらず、市販されていません。
しかし、トヨタは実用化に意欲的であり、2023年11月11日には開発中の気体水素エンジン搭載車がオーストラリアの公道で走行実証を開始したニュースが報じられました。
関連記事:水素自動車の仕組みとは?ガソリン車や自動車との違いや魅力について紹介!
水素自動車のメリット・デメリット
ここでは、水素自動車のメリットとデメリットを項目分けして紹介します。
水素自動車のメリット
水素自動車は、FCVと同じく走行時のCO2排出量がごく少ない点が最大のメリットです。
動力を得る際に水素を燃焼させると酸素と結びつき、理論上は水(水蒸気)しか排出されません。
水素自動車のエンジンは従来のガソリンエンジンを転用・改良することで製造でき、原価を抑えられるというメリットもあります。
燃料代に関しても、水素自動車の場合はより純度の低い水素も燃料となるため、FCVに比べて安価に設定される可能性があるでしょう。
関連記事:水素自動車の燃費は良いのか?燃費の考え方とガソリン車と比較
水素自動車のデメリット
水素自動車のデメリットは、エネルギーの変換効率や航続距離がFCVより劣る点です。
エンジン駆動とモーター駆動では、エネルギー効率に差が出ることは避けられず、燃費のよさについてはさらなる研究と改良が待たれます。
また、ガソリン車と同様に燃料を高温燃焼させる水素エンジンは、高負荷運転時にNOxが多量発生するため、環境性能に関してもFCVが勝ります。
ただし、ガソリン車やディーゼル車に比べると飛躍的に少ない排出量まで低減可能です。
関連記事:水素自動車が「環境に悪い」といわれる理由とは?普及に向けた問題点も解説
水素自動車・燃料電池車の今後の課題
FCVと水素自動車は、脱炭素社会の実現を加速し得る画期的な車といえます。
しかし、実際には国内での普及や発展があまり進んでいないのが現状です。
その理由の1つは、燃料を補給するための水素ステーションの設置数が少ないことです。
水素ステーションの全国運用数は現時点で161カ所と、2万カ所以上あるガソリンスタンドや充電スポットの設置数には遠く及びません。
設置場所も東京都・愛知県・大阪府といった都市部に集中しており、地方への普及は不十分です。
課題としては、水素ステーションの設置・運営コストが非常に高い点が挙げられます。
ガソリンスタンドの建設費が通常7,000万~1億円ほどであるのに対し、2019年時点の水素ステーションの整備費は約4億5,000万円でした。
また、水素の製造過程でCO2が大量排出される問題も残っています。水素を燃料とする車は走行時のCO2排出量がゼロでも、燃料の製造時に天然ガスや石炭を燃焼させるため、環境への負担はむしろ大きいとする見方もあるのです。
今後はCO2の回収・活用技術や、自然エネルギーを活用した水素製造方法の発展が求められます。
関連記事:電気自動車と水素自動車はどっちを選ぶのがいい?何が違う?
まとめ
この記事では、燃料電池車と水素自動車の概要やメリット・デメリットについて解説しました。
FCVは水素と酸素の化学反応で発生した電気を利用し、高いエネルギー効率で走行できる車です。
水素自動車はガソリンに代わって水素を燃焼させるエンジンを搭載しており、比較的安価で製造できます。
水素を燃料とする車に共通するメリットは、走行時のCO2排出量が理論上ゼロであることです。
普及が進むことで、脱炭素社会を実現して地球温暖化を食い止める可能性が期待されています。
しかし、こうした車はインフラ整備や燃料自体に高いコストがかかるため、一般に普及するまでに時間がかかるという重大な課題を残しています。
水素の製造時に多量のCO2が発生する矛盾も抱えており、改善の余地は大きいです。
これらの課題を解消し、FCVや水素自動車を普及・実用化する取り組みは国内外で続いています。
今後、水素を利用した自動車が日常的に使われる未来が来るかもしれません。
画像出典元:トヨタ自動車株式会社